離婚で家を売却するベストなタイミングは?離婚前それとも離婚後?
離婚に伴い、これまで夫婦で住んでいた家を売却するケースは多いでしょう。しかし、離婚時の家の売却は適切なタイミングで行わないと、思わぬ損失を被る可能性があります。
例えば、離婚前の財産分配で贈与税が課されることや、相場よりも低い価格で売却してしまうこともあるため、注意が必要です。
本記事では、離婚前と離婚後、それぞれのタイミングでの売却のメリットを詳しく解説し、家を売却する際の注意点についても触れています。また、売却方法や具体的な流れについても説明しますので、不動産売買の基本的な知識を得たい方にも役立つ内容となっています。
これから離婚を考えている方や、家の売却をどのタイミングで行うべきかお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事を監修した人
岩冨 良二
後楽不動産 売買事業部 係長
不動産業界歴26年のベテランで、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士の資格を持つエキスパート。豊富な知識と実績でお客様から厚い信頼を得ており、売買事業部のエースとして活躍中。複雑な取引もスムーズにサポートし、最適な提案を行う頼れるプロフェッショナルでありながら、社内のムードメーカーとしても周囲を明るくする存在。
目次
家を離婚後のタイミングで売却するメリット3つ
離婚後に家を売却すると、売却価格や財産分与など金銭面でメリットが得られる場合があります。離婚後に余裕のある生活を送るためにも、離婚後に家を売却するメリットについて知っておきましょう。
離婚後に家を売却するメリットとは?
- 落ち着いて売却に専念できる
- 財産分与がスムーズに行える
- どちらかが家に住み続けることもできる
落ち着いて売却に専念できる
離婚前に家を売却する場合、相手との関係を早く終わらせたいという思いから、売却を急ぐことが多く、結果として納得のいく価格での売却が難しくなることがあります。また、離婚前に売却すると、売却に適したタイミング(市場の動向や繁忙期など)を逃すことになり、本来は高く売れたであろう物件を安価で手放すリスクもあります。
なるべく高く家を売却したいと考えているならば、売却タイミングを慎重に見極め、市場の動向や物件の状態に合わせて計画を立てることが重要です。離婚後は心理的な余裕が生まれやすく、じっくりと売却活動に取り組める可能性がありますが、状況によっては離婚前の売却が有利になるケースもあるため、事前に不動産会社に相談しておくと良いでしょう。
財産分与がスムーズに行える
離婚前に自宅を売却して代金を分配する場合、一般的には贈与と見なされ、贈与税が発生する可能性があります。ただし、夫婦が50%ずつの所有権で共有している場合など、合理的な財産分与と認められるケースでは、贈与税が課されない場合もあります。
一方、離婚後における財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を分け合う制度であり、原則として贈与税はかかりません。ただし、例外的に財産分与額が過剰であると判断される場合や、離婚を手段として贈与税の回避を図ったとみなされる場合には、贈与税が課税される可能性があります。
したがって、離婚後に自宅を売却して代金を分配するほうが、税金がかからず財産分与がスムーズに行える場合が多いでしょう。具体的な状況に応じて、税理士や不動産会社などの専門家に相談することをおすすめします。
どちらかが家に住み続けることも可能
離婚後に家を売却するメリットの一つとして、夫婦のどちらかが家に住み続けられる場合があることが挙げられます。
離婚前に家を売却してしまうと、夫婦がそれぞれ新しい住居を探さなくてはならず、子どもにとっても転校や生活環境の変化などの負担が増えることがあります。しかし、離婚後であれば売却のタイミングを調整できるため、子どもの生活環境を離婚前とできるだけ近い状態で維持しながら、引っ越し先をじっくり検討する余裕が生まれます。
ただし、この選択肢にはリスクもあります。例えば、住宅ローンが残っている場合に、名義人が家に住まない場合は、ローン返済の負担が一方に偏る可能性があります。また、ローン契約では、名義人本人が住むことを条件としている場合が多く、これに違反すると金融機関から一括返済を求められるリスクも考えられます。
そのため、どちらかが家に住み続ける選択をする場合には、名義変更や住み替えローンの利用、または家を賃貸に出すなど、専門家の助言をもとに適切な対策を検討することが重要です。状況に応じた対応を進めることで、子どもの負担を軽減しながら家の売却計画を立てられるでしょう。
家を離婚前のタイミングで売却するメリット3つ
前章では、離婚後に家を売却する方が金銭面でメリットが多いことを説明しました。ですが、家を離婚前に売却することにもメリットはあります。
本章では、離婚前に家を売却するメリットについて、3点紹介していきます。
離婚前に家を売却するメリットとは?
- 離婚後に連絡を取らなくていい
- 離婚後のトラブルが回避できる
- 利益が出たら新生活に使える
離婚後に連絡を取らなくていい
家を離婚前に売却することのメリットには、元の配偶者と離婚後に連絡を取り合わなくていいという点があります。家の売却を離婚後に行うと、売却活動の進捗状況や売却後の利益を分配する際など、元配偶者と連絡を取り合うタイミングが訪れます。
離婚後は一切相手との連絡を絶ちたいということであれば、贈与税が発生するリスクは承知の上で、離婚前に家を売却しておきましょう。
離婚後のトラブルが回避できる
離婚後に起こりがちなトラブルとは?
- 元配偶者との連絡が途絶える
- 同意なしに家を売却されてしまう
- 家の売却をめぐって意見が対立する
- 財産分与の期限内に売却できない
離婚後に家を売却しようとすると、様々なトラブルが起こる可能性があります。例えば、元配偶者と連絡が取れなくなってしまい、売却の話が進められなくなる場合や、名義人の配偶者が勝手に家を売却してしまう場合などです。
このような、離婚後に家を売却すると起こりうるトラブルは、離婚前に売却を済ませることで回避できます。
利益が出たら新生活に使える
離婚前に家を売却して利益を得ている場合、その資金を新しい生活のスタートに役立てることができます。引越しには多くの費用がかかるため、少しでも多くの資金があれば安心です。
新たな一歩を踏み出すために、しっかりと準備を整えましょう。
離婚で家を売却するときの注意点は?
本章では、離婚して家を売却しようとする際の注意点や、知っておきたいことについてまとめています。家の売却を初めて行うという人は多いですし、離婚が絡んでいるとなると分からない点もさらに多くなるでしょう。
離婚時に家を売却する際の注意点をしっかり理解しておくと、知識不足による損失や手続きの不備を避けることが可能です。
タイミングを誤ると損失が出る可能性
家の売却で意識しておくべきタイミング
- 減税制度を利用できるかどうかで利益が変わる
- 住宅ローンの金利が低いときは購入者が増える
- 築年数が経っているほど売却価格は下がる
- 春と秋は不動産の繁忙期で買い手が増える
家の売却においては、タイミングが重要な要素となります。様々な側面からタイミングを意識して売却することで、少しでも高く家を売却できるでしょう。
逆に言うと、売却のタイミングを見誤ると、本来であれば高く売却できていたはずの家を安く売却してしまうという失敗もあり得ます。家をどのタイミングで売却するかは、不動産のプロである不動産会社にアドバイスを受けるとよいでしょう。
オーバーローンになっていないか
離婚で家を売却しようとするときは、住宅ローンの残債が売却価格よりも上回ってしまう「オーバーローン」の状態になっていないかを確認しておきましょう。オーバーローンの状態で家を売却したい場合は、以下のような売却方法があります。
オーバーローン状態の自宅を売却するには?
- 自己資金で差額分を補填して売却
- 住み替えローンで残債を支払う
- 金融機関に相談して任意売却する
自己資金や支払い能力などで、今後取るべき選択肢は変わってきます。ベストな方法が分からないときは、不動産会社に相談してみましょう。
財産分与は2年間の期限がある
財産分与には離婚後2年という制限があり、この期間を過ぎると財産分与請求権は消失し、一部のケースを除き家庭裁判所での財産分与に関する調停は受理されなくなります。離婚後に家を売却するならば、2年以内に売却が完了するようにスケジュールを調整していきましょう。
離婚で家を売却する方法は?
離婚に際して家を売却するときの方法は、主に次の3つに分類されます。
家を売却する方法
- 不動産仲介で売却する
- 不動産買取専門業者に買い取ってもらう
- 任意売却を行う
本章では、売却方法それぞれの詳しい内容、メリットデメリットについて解説していきます。
不動産仲介で売却する
最も一般的な家の売却方法は、不動産仲介業者に依頼して売却する方法です。仲介業者と売主が契約を結び、売主に代わって仲介業者がインターネット広告やチラシ配布などの売却活動を行い、買い手を探してくれます。
売主が希望する売却価格を基準に買い手を探すため、今回紹介している3つの方法の中では、最も高く売却できる可能性があります。しかし、売却物件に魅力が欠けている場合、売却までに時間がかかることがあるため、早急に家を売却して離婚を進めたい場合には適していません。
不動産買取専門業者に買い取ってもらう
早く離婚を進めたいので急いで家を売却したい場合や、リフォームが必要な古い物件の場合は、不動産買取専門業者に買い取ってもらう方法もあります。買取では最短数日程度で取引が終了するため、売却までに半年以上かかることもある仲介に比べると、スピーディに手続きを進めることが可能です。
一方で、買取の場合は仲介に比べると6~8割程度、安く売却することになってしまいます。また、再販売が難しいと思われる物件は買い取ってもらえない場合もあるため、注意が必要でしょう。
任意売却を行う
住宅ローンが残っている物件は、原則として完済しない限り仲介や買取での売却はできません。ただし、住宅ローンの返済が困難で、売却しても残債が残る「オーバーローン」状態の場合、金融機関の承認を得た上で任意売却を進めることが可能です。
任意売却は、競売を避けるための方法であり、金融機関との合意に基づいて売却活動を行います。ただし、任意売却には期限があり、この期限とは、住宅ローンの滞納が続き、競売手続きが開始されるまでの期間を指します。期限内に売却が成立しない場合、物件は競売にかけられる可能性があります。
競売では市場価格の5割程度で売却されるケースが多く、売却価格が大幅に低下するリスクがあります。そのため、住宅ローンの返済が困難になった場合は、早めに金融機関や不動産会社に相談し、任意売却の可否や他の選択肢を検討することが重要です。たとえば、自己資金で残債を補填する方法や住み替えローンの活用も視野に入れましょう。
任意売却は最終手段として考え、できるだけ損失を抑えるための対策を専門家とともに進めていくことをおすすめします。
離婚で家を売却するときの流れは?
本章では、離婚で家を売却するときはどのような流れで進むのかを解説していきます。これから離婚がきっかけで家を売却する予定の人は、通常の売却とは何が違うのか、確認しておくとよいでしょう。
家と住宅ローンの名義人を確認
離婚が原因で家を売却する際には、まず最初に家と住宅ローンの名義人・連帯保証人を確認しておきましょう。家と住宅ローンそれぞれで名義人が異なる場合もあるため、注意が必要です。
不動産会社へ査定を依頼
名義人の確認ができたら、不動産会社へ家の査定を依頼します。可能であれば査定は複数の不動産会社に依頼し、各社の提示価格を比較して適正価格を把握するとよいでしょう。
査定を依頼した不動産会社の中から、査定価格や担当者との相性を考慮し、1社を選択して媒介契約へと進みます。
媒介契約を結んで売却活動開始
不動産会社が決まったら、媒介契約を結んで売却活動が始まります。媒介契約には、1社のみと契約する「専属専任媒介」と「専任媒介」、複数の会社と契約できる「一般媒介」の3種類があります。
媒介契約を結んだ不動産会社と売却価格について相談し、価格が決定したら不動産会社は不動産情報サイトへの掲載やポスティング等で宣伝を行います。買い手の希望があれば、家の中を見せる「内覧」を行うこともあるため、少しでも買い手に良い印象を与えられるように、掃除や片付けなど行っておくとよいでしょう。
売買契約締結・引き渡し
買主が決まったら、売主・買主・不動産仲介業者が集まって売買契約書の締結を行います。不動産仲介業者が重要事項の説明を行った後、売主と買主が売買契約書に署名捺印をします。
売買締結から引き渡しまでの間に、買主は売主へ手付金として売買代金の10%程度を支払うのが一般的な流れです。引き渡しの日には、売主、買主、不動産会社の担当者などが金融機関に集まり、残りの代金の支払いと登記の移転手続きを行います。
すべての支払いと手続きが完了すると、所有権が売主から買主に移り、売主が買主へ鍵と関連書類を渡すと引き渡し終了です。
財産分与を行う
家の売却手続きが完了したら、売却代金から不動産会社へ支払う諸費用や引っ越し代金などを差し引いた残金を、夫婦で分配します。家を売却した代金は夫婦の共有財産ですので、家の名義に関わらず、取り分は夫婦で2分の1ずつです。
離婚で家を売却するなら公正証書を作成しよう
裁判所を介さずに夫婦で話し合って離婚する協議離婚の場合、離婚の条件などを記した離婚協議書を公正証書として作成しておくと、後の財産分与や慰謝料の未払い等のトラブルが防げます。公正証書として作成すると離婚協議書に法的効力が生まれ、相手が合意内容を守らない場合、裁判を経ずに強制執行が可能になるからです。
財産分与や慰謝料・養育費を受け取る側の立場であれば、公正証書を作成することをおすすめします。
離婚で家を売却するタイミングに迷ったら
離婚に伴う家の売却では、タイミングが重要です。離婚後に売却する場合、心理的な余裕が生まれやすく、市場のタイミングを見極めて適切な価格で売却しやすいというメリットがあります。一方、離婚前に売却を済ませて現金化しておけば、財産分与が明確になり、離婚後のトラブルを防げるケースもあります。
売却のタイミングは、住宅ローンの残債、不動産市場の動向、子どもの生活環境など、さまざまな要因に左右されます。どちらが有利かは家庭の事情や市場状況によって異なるため、不動産会社や税理士に相談し、自分たちにとって最適な選択肢を検討することが大切です。