市街化調整区域の家や土地は売却できない?売却方法と注意点を解説!

市街化調整区域にある家や土地の売却を考えていても、「どこから手をつければよいのか分からない」「制限があると聞いて不安」と感じる方も多いのではないでしょうか。
まずは、市街化調整区域とはどのような場所なのかを理解することが、売却を前向きに進めるための第一歩となります。
本記事では、市街化調整区域の基礎知識に加え、市街化調整区域の物件を売却する際の方法や注意点、買い手となる人の特徴などについて詳しく解説していきます。
市街化調整区域での不動産売却を成功させるヒントとして、ぜひお役立てください。
この記事を監修した人

岩冨 良二
後楽不動産 売買事業部 係長
不動産業界歴26年のベテランで、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士の資格を持つエキスパート。豊富な知識と実績でお客様から厚い信頼を得ており、売買事業部のエースとして活躍中。複雑な取引もスムーズにサポートし、最適な提案を行う頼れるプロフェッショナルでありながら、社内のムードメーカーとしても周囲を明るくする存在。
市街化調整区域とは?

市街化調整区域とは、都市の無秩序な拡大(スプロール現象)を防ぎ、農地や森林といった自然環境を守ることを目的に、都市計画法に基づいて指定された区域です。1968年の都市計画法改正によって導入された「区域区分(線引き)」により、市街化区域とともに設定されています。
この区域では、原則として新たな建物の建築や宅地開発が制限されており、住宅や商業施設の建設には自治体の許可が必要となります。ただし、一定の条件を満たすことで建築が認められるケースもあり、すべての開発が完全に禁止されているわけではありません。
土地の用途が限定されることから、一般的な市街地と比べて売却が難しいとされることもありますが、条件や使い方次第では売却の可能性も十分にあります。まずはその仕組みを正しく理解することが重要です。
市街化調整区域と市街化区域の違い

市街化調整区域と市街化区域は、都市計画法に基づいて設定された区域区分で、それぞれ異なる目的と特徴を持っています。市街化調整区域と市街化区域の違いを表にまとめました。
市街化調整区域 | 市街化区域 | |
---|---|---|
目的 | 市街化を抑制 | 市街化を促進 |
開発の可否 | 原則禁止(許可制) | 自由に開発可能 |
建築制限 | 厳しい(許可が必要) | 制限なし |
インフラ整備状況 | 不十分な場合が多い | 整備が進んでいる |
土地利用の自由度 | 制限あり | 高い |
市街化区域と市街化調整区域は、都市計画によって明確に区分されています。市街化区域はすでに都市化が進んでいる地域で、住宅や商業施設の建設が自由に行えます。
一方で市街化調整区域は開発が制限され、市街地の拡大を抑制するのが目的です。こうした違いによって、インフラ整備の度合いや建築可能な物件の種類、土地の価値に差が生じています。
市街化調整区域の物件が売却できないと言われる理由5つ

市街化調整区域が売却しづらいと言われているのには、いくつかの理由があります。ここでは、主な理由を5つ解説していきます。
新築や建て替えに制限がある
市街化調整区域では、新たな住宅の建築や建て替えを行う場合には自治体の許可が必要となります。この制限があるために、購入希望者が積極的に検討しづらくなることが、売却が難しいと言われる理由のひとつです。特に新築の場合は都市計画法の制限があり、自治体の長による許可が必要です。
一方で既存の住宅の建て替えは認められるケースも多いですが、規模や用途の変更には制限がかかる場合があります。新築や建て替えに関するルールに関しては自治体ごとに異なるため、事前に都市計画課や建築指導課へ相談し手続きを進める必要があるでしょう。
住宅ローン審査が通りにくい
市街化調整区域の物件は、居住や建築に制限があるため、住宅ローンの審査が一般的な物件と比べて慎重に行われる傾向があります。金融機関によっては、担保評価の難しさや流動性の低さを理由に、融資の対象外とするケースも見られます。
ただし、すべての金融機関で融資が難しいわけではなく、条件付きでローンが利用できる場合もあります。たとえば、頭金の割合が多めに求められたり、通常よりも金利が高めに設定されたりすることがあります。そのため、購入希望者がローンを利用する場合には、事前に複数の金融機関へ相談し、融資条件を確認しておくことが大切です。
生活インフラが整備されていない
市街化調整区域は市街化区域に比べて道路が整備されていないことや、電気・ガス・水道といった生活インフラが整っていない場所もあることを理由に、買い手から敬遠されがちです。都市ガスが供給されていない地域はプロパンガスを利用することになりますが、地域によっては都市ガスより割高になることが多いです。
また、市街化調整区域では、下水道が整備されていない地域も多く、汲み取り式トイレや浄化槽を設置して生活排水や汚水を処理する必要があります。
農地の場合は転用許可が必要
市街化調整区域内の農地は、そのままでは宅地として利用できません。転用許可を得るための手続きが必要であり、時間やコストがかかるため、売却に際してのハードルが高くなります。
転用許可には農地転用届出書以外にも、土地の登記事項証明書や地籍図・位置図・集落や水利関係者の同意書などが必要な場合もあるため、事前に十分な準備が必要です。手続きが煩雑なため、行政書士など専門家に依頼することが多くなり、その分の費用もかかります。
周辺環境が整っていない
市街化調整区域の物件は、交通の便や周辺施設の充実度といった面で、市街化区域と比べて整備が行き届いていないことがあります。日常の買い物ができる商業施設が少なかったり、学校や病院といった公共施設へのアクセスが不便な地域も少なくありません。
こうした点から、特に子育て世代や高齢者のいるご家庭にとっては、生活利便性に不安を感じる要因となり、購入の検討に慎重になるケースも見られます。
市街化調整区域の物件を売却する方法とは?

市街化調整区域にある物件でも、売却がまったくできないわけではありません。物件の特性や地域の事情に合わせて、適切な方法を選ぶことで、スムーズな売却につながる可能性は十分にあります。
ここでは、市街化調整区域の物件を売却する際に検討したい主な方法について、それぞれの特徴やメリット・注意点を含めてご紹介します。
市街化調整区域の売却に詳しい不動産会社に依頼する
市街化調整区域の売却は通常の不動産と違い、複雑なプロセスが必要になるケースも多々あります。そのため、不動産会社によっては経験が浅く、市街化調整区域の売却ノウハウを持ち合わせていない可能性も考えられます。
そこで、売却を成功させるために重要になるのが不動産会社選びです。市街化調整区域専門の不動産買取業者や、市街化調整区域があるエリアに密着した不動産会社に依頼することで、売却がスムーズに進む可能性が高まります。
空き家バンクに登録する
空き家バンクとは、主に自治体が運営している空き家のマッチングサービスで、地方への移住促進や地域資源の有効活用を目的としています。登録された物件は自治体のホームページなどを通じて広く公開され、移住希望者や地域との関わりを求める人に向けた情報提供が行われます。
市街化調整区域にある物件でも、自治体によっては空き家バンクへの登録が認められている場合があり、一般的な不動産サイトではなかなか届かない層にアプローチできるという点が大きなメリットです。特に、地方移住や古民家暮らしに関心を持つ人々にはニーズがあるため、条件が合えば売却や賃貸につながる可能性があります。
ただし、空き家バンクには各自治体ごとの登録基準や審査条件があり、すべての物件が対象になるとは限りません。また、情報の掲載や交渉にある程度の時間がかかることもあるため、事前に自治体へ相談し、登録条件やサポート体制をしっかり確認しておくことが大切です。

個人売買で売却する
市街化調整区域の物件を売却するには、個人間での売買という方法もあります。まずは友人や知人で購入を希望する人がいないかを、あたってみるとよいでしょう。
身近な人で購入希望者が見つからない場合は、個人売買専門のサイトも利用可能です。個人売買サイトに登録すると、全国から購入希望者を募ることができ、販路が広がります。
- 住宅ローンの審査が通らない場合がある
- 手続きに時間と手間がかかる
- 不動産の知識が必要
- 売却時や売却後にトラブルが発生することがある
個人売買は仲介手数料がかからないというメリットがある一方で、専門的な手続きや責任をすべて売主自身が負うことになるため、慎重な判断が必要です。
少しでも不安がある場合や、法律・契約に自信がない場合は、不動産会社を通して売却を進めることを強くおすすめします。専門家のサポートを受けることで、トラブルのリスクを回避し、安心して取引を進めることができます。

市街化調整区域の物件を売却する相手は?

市街化調整区域の物件には様々な制約が課されるため、売却する相手も限定されます。ターゲット層を絞って売却活動を行うことが、スピーディな売却への第一歩です。
本章では、市街化調整区域の売却相手として候補に挙がるのはどのような人かを解説していきます。
農業や林業を営んでいる人
農業や林業を営んでいる人には、市街化調整区域が適しています。農業や林業を行うために必要な住宅や施設と判断される場合、開発許可を得られる可能性が高いという理由からです。
市街化調整区域の物件は相場価格が低いので、開発許可さえ得られれば買い手にとってもメリットと言えるでしょう。ただし、開発許可を得るためには一定規模で農業や林業を行っている証明が必要です。
市街化調整区域内の事業者
市街化調整区域内にある事業者も、売却相手として候補に挙がります。近くで事業を営んでいる人が、資材置き場や来客用の駐車場として活用したいと購入するかもしれません。
売却したい物件の周辺で商売をしている人がいれば、一度声をかけてみるとよいでしょう。
隣地の所有者
隣地の所有者がいれば、その人に売却を交渉してみるのもおすすめです。買い手側にとっても隣の土地が手に入れば自分の土地を広くでき、開発許可が下りれば家を建てて子どもや孫と同じ敷地内に住むこともできます。
隣地の所有者が購入するならば境界線をめぐるトラブルにもなりにくく、売却がスムーズに進むメリットもあります。
地方の中古住宅を探している人
田舎でのスローライフや自然に囲まれた暮らしを求めて地方の中古住宅を探している人も、市街化調整区域の物件に関心を持つ可能性があります。特に近年は、古民家をリノベーションして自分好みに暮らすスタイルが若い世代にも広がっており、需要が少しずつ高まっています。
このようなライフスタイルを重視する層にとっては、新築や建て替えに制限があるといった市街化調整区域ならではの条件も、大きな障壁とはならない場合があります。そのため、物件の魅力や活用方法をしっかり伝えることで、購入につながる可能性も十分にあると言えるでしょう。
市街化調整区域の物件を売却する際の注意点

市街化調整区域の売却には、通常の土地売却とは異なる点があります。本章では、中でも特に注意しておくべき点について解説していきます。
売却する土地の地目を確認する
市街化調整区域で土地を売却する際は、地目(ちもく)の確認が重要です。地目とは、土地の登記簿上で定められた利用目的を表す分類のことです。
- 宅地(住宅用地として利用が可能)
- 農地(売却には農地転用の許可が必要)
- 山林・原野(宅地への用途変更が必要)
- 雑種地(ざっしゅち)・その他(条件次第では売却可能)
売却時には、地目によって売却の可否や条件が異なるため、必ず確認しておきましょう。
自治体の区域指定を確認する
市街化調整区域内でも、自治体の条例や都市計画によって、細かい指定がなされていることがあります。買い手は土地の利用条件や建築の可否を重要視していますので、自治体による区域指定をしっかり確認しておきましょう。
建築や用途変更に関する正しい情報を買い手に伝えることで安心感を与えられ、売却がスムーズに進む手助けとなるでしょう。
建物の建築が線引きの前か後かを確認する
不動産の線引きとは、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に分けることを指します。線引きが開始されたのは昭和43年に新都市計画法が成立してからですが、線引きの日というものは地域により異なります。
売却する物件が線引き前に建築されたのか、それとも線引きの後に建築されたのかによって、売却条件が異なる場合があるため、確認しておかなくてはなりません。線引きの確認方法は、登記簿や都市計画図などを確認するか、自治体の窓口で直接確認することもできます。
専門家に相談しながら売却を進める
市街化調整区域の家や土地を売却する際は、通常の不動産取引に比べて法的な確認や許認可が必要になる場面が多いため、専門的な知識を持つ不動産会社への相談が欠かせません。特に、都市計画法や自治体ごとの条例に詳しい不動産会社であれば、必要な手続きを適切に進めてもらえるため、安心して任せることができます。
また、地元密着型の不動産会社であれば、その地域で物件を探している買い手の情報を持っていることも多く、個人で売却活動を行うよりもスムーズに話が進む可能性があります。
市街化調整区域の売却は、一つひとつ確認を重ねながら慎重に進めることが成功の鍵です。不明点や不安がある場合は、早い段階で専門家に相談し、適切なサポートを受けながら進めていきましょう。
まとめ
市街化調整区域にある家や土地の売却は、通常の不動産売却とは異なり、法的な制約や手続きの複雑さが伴うため、不安を感じる方も多いかもしれません。しかし、適切な知識と準備があれば、売却を成功させることは十分に可能です。
本記事では、市街化調整区域の基本的な仕組みから、売却が難しいと言われる理由、売却方法や買い手の傾向、さらには注意すべきポイントまで幅広く解説しました。制限があるからといって売却をあきらめる必要はありません。物件の特性に合ったターゲットを見極め、空き家バンクの活用や専門家の支援を受けることで、スムーズな売却へとつなげることができます。
まずは、所有している物件の用途や制限を整理し、どのような売却方法が適しているかを検討しましょう。そして、不明点や手続きに不安がある場合は、地域に詳しい不動産会社に相談することをおすすめします。正しい情報と信頼できるサポートが、納得のいく売却への第一歩となるはずです。
この記事を監修した人

岩冨 良二
後楽不動産 売買事業部 係長
不動産業界歴26年のベテランで、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士の資格を持つエキスパート。豊富な知識と実績でお客様から厚い信頼を得ており、売買事業部のエースとして活躍中。複雑な取引もスムーズにサポートし、最適な提案を行う頼れるプロフェッショナルでありながら、社内のムードメーカーとしても周囲を明るくする存在。