不動産売却の現状渡しとは?メリットとデメリット、注意点を解説
不動産を売却したいけれど、リフォームする費用がないとお悩みの方には、「現状渡し」という取引方法があります。物件をそのままの状態で売り出す現状渡しは、売主にも買主にもリスクが伴うため、契約には慎重な対応が求められます。
本記事では、現状渡しで不動産売却をする場合のメリットとデメリットを、売主買主双方の立場から解説しています。また、現状渡しを選択する際の注意点についてもまとめています。
これから不動産売買を考えている方や、現状渡しが気になっているという方は、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
目次
不動産の現状渡しとは
不動産の売買において現状渡しとは、「物件のリフォームや修繕を行わずにそのままの状態」で引き渡すことをいいます。不動産売買契約書には正式名称で「現状有姿」と記載されます。
「自分たちの好みにリフォームしたい」「修繕なしでいいから安く買いたい」というニーズもあり、現状渡しでの取引も多いですが、売主が物件の欠陥について責任を負わなくてよいというわけではありません。
本章では、不動産の現状渡しに関する告知義務や法的責任について、主要ポイントをまとめています。
現状渡しの告知義務
告知義務とは、売主が物件情報を正確に買主へ伝える法的義務を指します。告知が正確に行われていないと、買主が居住を始めてから損害を被る可能性があります。
告知を怠って買主とトラブルになり、契約解除や損害賠償請求などに発展しないよう、売主は責任もって告知を行わなければなりません。現状渡しの際には物件の情報を詳しく説明し、買主に納得してもらったうえで契約を進めていきましょう。
ただし、実際の取引では告知は売主から買主へ直接ではなく、仲介している不動産会社を通して行われるのが一般的です。告知義務のある内容や範囲については、専門的な知識が必要となる場面も多くあります。
後々のトラブルを防ぐためにも、知識が豊富で信頼できる不動産会社に仲介を依頼することが重要です。
契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)
契約不適合責任とは、2020年4月の民法改正から新たに定められた規定です。改正前は「瑕疵(かし)担保責任」と呼ばれていました。
瑕疵担保責任とは、売却物件に隠れた欠陥などがある場合に売主が問われる責任のことです。瑕疵担保責任に代わって制定された契約不適合責任は、より一層買主の請求権が拡大されて売主にとっては売却後の責任が重くなりました。
契約不適合責任では、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの(民法第五百六十二条)」だった場合、買主は売主に対して補修の請求などができます。現状渡しの際には、売買契約書に物件現況や契約条件をより詳しく記載することが、売主の責任追及リスクを減らすためには重要になってきます。
【売主側】現状渡しのメリットとデメリット
本章では、不動産売買において現状渡しで取引すると、売主側にはどのようなメリットデメリットがあるのかを解説していきます。
メリット①コストが削減できる
不動産売却の際に現状渡しにすると、リフォーム費用などのコストを削減できます。古い物件になるほど、住宅そのものや付随する設備に不具合が増えてきます。
これらの不具合をすべて修繕や設備の交換を行ってから売却するとなると、売主の負担が大きくなってしまいます。リフォームをするコストや業者に依頼する手間を省けるのが、現状渡しの大きなメリットの一つでしょう。
メリット②迅速な販売が可能
迅速に販売できるのも現状渡しのメリットです。通常通りのリフォームや修繕を行ってからの販売だと、修繕が終わるまで売り出せません。
万が一工事が延びると、その分売り出し時期も遅くなってしまいます。修繕場所が多い場合や大規模工事が必要な場合は、なおさら売り出しまでに時間がかかってしまうでしょう。
現状渡しであれば、工事が入りませんのでスケジュールに影響もなく、迅速な販売活動が可能です。
メリット③ニーズに合った価格設定
最近では、DIYで中古住宅をリフォームする動画をSNSでよく目にします。簡単な模様替えから大規模なリフォームまで、SNSでやり方を学べるので、誰でも気軽にリフォームに取り組めるようになりました。
DIYやセルフリノベーションの流行も影響しているのか、多少古くてもいいので安く購入して手を加えたいという買主も多くなっています。現状渡しだと売り出し価格を低く設定できるので、幅広いニーズに対応できるのもメリットでしょう。
デメリット①低価格での販売になる
現状渡しのデメリットとして、低価格での販売になる点があげられます。現状渡しは欠陥や不具合が見つかる可能性が高い物件なので、相場よりも安い価格でないと売却しにくいからです。
また、買主側は購入後にリフォームを視野に入れているため、リフォーム分の費用を考慮して値下げ交渉をしてくることでしょう。現状渡しで不動産売却を考えているならば、値下げを前提とした価格設定にしておくか、どこまで値引きに応じるかをあらかじめ決めておくといいでしょう。
デメリット②トラブル発生の可能性
現状渡しで不動産売却を行うと、売主が契約不適合責任を負う可能性があります。現状渡しは修繕なしでそのまま物件を引き渡すために、あとから欠陥が見つかることもあるからです。
契約不適合責任でのトラブルを防ぐためには、物件の欠陥等は必ず買主と不動産会社に報告しておきましょう。買主の合意があれば、売買契約書に免責事項を特約として記載できます。
【買主側】現状渡しのメリットとデメリット
本章では買主側からみた、現状渡しのメリットとデメリットについて解説していきます。
メリット①相場より安く購入できる
買主側からは、現状渡しの物件は相場よりも安く購入できるのが大きなメリットです。物件の購入価格が安くなるために、予算が少なくても駅から近い物件や広い土地の物件などが手に入る可能性があります。
リフォームを行う予定であれば、物件の価格が低い分リフォームに費用を回せます。売主がリフォーム済みの物件では、自分の好みに合わなかったり、使い勝手が悪かったりすることも考えられます。
現状渡しの物件を相場より安く購入し、自分好みのリフォームを行うのも良い選択です。
メリット②物件の状態を確認できる
リフォーム済の物件だとリフォーム前の家の状態が見られませんが、現状渡しなら家本来の姿が見られて状態がよく確認できるメリットがあります。雨漏りの跡や壁紙のカビなど、リフォームされてしまうと以前の状態が分かりません。
前の住人が住んでいた時にどのような状態だったのかを見れば、物件に隠れた欠陥や不具合が見つかることもあります。物件のありのままの状態を確認し、不具合部分を値下げ交渉の材料として利用するのもよいでしょう。
デメリット①不具合への対応が必要になる
現状渡しの場合、物件の状態そのままで購入するため、欠陥や不具合が見つかれば自分で対応しなくてはなりません。リフォーム費用や設備代などで、出費が大きくなる可能性があります。
引越し後に不具合が発覚してリフォームが必要になると、一時的に仮住まいが必要になる場合もあり、その分費用もかさみます。現状渡しで物件を購入する際は、さまざまな不具合が発生するのを見越して、余剰資金を残しておきましょう。
デメリット②購入前に詳細な調査が必要
現状渡しで物件を購入する場合は、購入前に詳細な物件調査(ホームインスペクション)が必要です。事前に物件の調査を行っておくと、売主が把握できていなかった欠陥が判明することもあり、結果次第では購入の見送りも必要になります。
物件の調査は、一級建築士など専門知識を持つ第三者に依頼します。物件購入の意志が固まったら、売買契約締結前に調査を行うのがベストなタイミングです。
費用は数万円程度になりますが、購入後に不具合が発覚するとリフォーム費用に数十万~数百万の出費になってしまいます。安心して物件を購入できるように、事前調査は実施しておいたほうがよいでしょう。
現状渡しで不動産を売却する際の注意点
本章では、現状渡しで不動産を売却する際の注意点について、解説していきます。現状渡しにはメリットとデメリットのどちらもあり、売主と買主ともに正しい知識のもとで取引することが重要です。
現状渡しを選択するならば、どのような点に注意すべきか、事前にやっておくべき準備など、不動産売却を行う際の参考にしてみてください。
物件の状態をホームインスペクションでよく確認する
現状渡しで不動産売却を行う場合は、売主と買主どちらの立場でも、物件の状態をよく確認してから売買契約締結を進めることが重要です。契約前の住宅調査として行うホームインスペクションは、売主・買主どちらが実施しても構いません。
売主が実施すると、買主に安心して物件を選んでもらえて、売却へ有利になる見込みがあります。築年数が古い・立地が悪いなどの不利な条件がある物件ならばとくに、売主はホームインスペクションを実施して他の物件との差別化を図るのもよいでしょう。
契約内容を明確にしておく
契約内容は売主と買主・仲介する不動産会社でよく話し合い、契約内容を明確にしておくべきです。とくに、売買物件の状態や買主に伝えておくべき留意事項については、物件状況確認書を交付し告知します。
買主は、物件状況確認書に記載された告知事項に関しては、購入後に不具合が発覚しても売主へ契約不適合責任を追及できません。買主は購入前に告知事項をよく確認して、不明確な部分がないように売主と協議しておく必要があります。
契約不適合責任の免責を確認
契約不適合責任については、特約を定めて責任追及の範囲や期間を免責できます。特約の詳しい内容は、売主と買主が協議の上で決定します。
原則として、不動産売却で契約不適合責任を追及するには、買主が不適合に気付いてから1年以内の通知が必要です。ただし、これまでの瑕疵担保責任では責任期間を3か月に設定することが一般的で、契約不適合責任でも以前のまま3か月を踏襲しているケースが多いです。
契約不適合責任の免責は、範囲を広げすぎると買主に不利になり、狭くすると売主の売却後のリスクが高くなってしまいます。売主と買主が双方納得できる免責内容になるように、不動産会社の担当者ともよく相談しながら決めていきましょう。
残置物は処分しておく
一般的に、現状渡しの際は売主が家具家電や生活用品などを処分しておく必要があります。高級な家具や家電は残しておいた方がいいのではと思われるかもしれませんが、「他の人が使ったものを使いたくない」「自分好みの家具家電を新たに購入したい」と思う人の方が大半です。
内覧の際にも、家具家電があると部屋が狭く見えてしまいますし、生活感が見えてしまうのはマイナスポイントです。不用な家具や家電、生活用品は売却前にフリマサイトやリサイクルショップに売りに行くか、ごみとして処分しておきましょう。
買主は物件の周辺環境についても調べておく
現状渡しで不動産売却する際には、建物の調査だけでなく周辺環境についても調査しておくほうがよいでしょう。隣人トラブルなど、告知書に記載されていない問題が潜んでいる場合があります。
売主からよく話を聞くほかにも、不動産会社に物件周辺に問題がないか確認し、自身でも物件の周囲を実際に歩き回って確認してみましょう。路上駐車をしている車はいないか、指定時間以外にごみが出されていないか、騒音を出している家はないかなど、日時を変えて何度か訪問してみるのをおすすめします。
地域の災害リスクについても、購入前にしっかりと確認しておくべきです。ハザードマップの閲覧はもちろん、土地の履歴もわかる範囲で調べておくとよいでしょう。
資金計画を立てる
不動産売買にあたっては、綿密に資金計画を立てておく必要があります。買主はローンの頭金や物件の初期費用、購入後のリフォーム費用など、何にいくら必要かを具体的に計算しておきましょう。
現状渡しの場合は、購入後に不具合が発生する可能性が高いため、購入後のリフォーム費用は多めに見積もっておきます。
専門家へ相談する
不動産売却の現状渡しを予定しているならば、まずは信頼できる不動産会社選びから始めましょう。現状渡しで考慮するべきポイントは多岐にわたるため、不動産の専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
現状渡しで不動産を売却するなら専門家へ相談しよう
本記事では、現状渡しで不動産を売却する際のメリットとデメリット、注意点について解説しました。不動産をそのままの状態で売却する現状渡しは、売主にメリットが多い一方で契約不適合責任に問われる可能性もあり、契約の際には注意が必要です。
現状渡しで物件を売却したいならば、不動産売却について事前に情報収集しておくことが重要です。不明点がある場合は、信頼できる不動産会社に相談しながら物件の売却へ向けて動きましょう。