年金受給中に不動産売却するとどうなる?税金や注意点・メリットを解説
年金受給中に不動産を売却すると、年金額が減額されるのではないかと心配される方も多いかと思います。
結論として、一般的な老齢年金を受給している方が不動産を売却しても、年金額に直接影響はありません。ただし、不動産売却によって得た利益が譲渡所得として計上されると、翌年の国民健康保険料など他の社会保障制度に影響が出る可能性があるため注意が必要です。また、確定申告が必要になる場合もあります。
本記事では、年金を受け取りながら不動産を売却した際の年金受取額や、支払うべき税金、売却時にかかる費用、売却によるメリットや注意点について詳しく解説していきます。
年金受給中の不動産売却は、場合によっては専門的な知識が求められるため、スムーズに進めるためにもぜひ本記事を参考にしてください。
目次
年金受給中に不動産売却すると減額される?
先述したように、年金受給中に不動産を売却しても、受け取る年金の額は変わりません。年金には大きくわけて3つの種類があります。
- 老齢年金: 一定の年齢に達した際に支給される年金
- 遺族年金: 被保険者が死亡した場合に、その遺族に支給される年金
- 障害年金: 障害を負った場合に支給される年金
一般的に年金と言われるのは、「老齢年金」のことで、国民年金・厚生年金・確定拠出年金などがあります。65歳から受け取れて、年金額は20歳から60歳までの加入期間に応じて計算されます。
「遺族年金」は、国民年金または厚生年金の被保険者が亡くなった際に、その方によって生計を維持されている遺族に支給される年金です。亡くなられた方の年金納付状況や遺族の年齢によって、受け取れる年金額は変わります。
「障害年金」は、国民年金と厚生年金の被保険者が加入中に病気やケガが原因で障害を負った場合、支給される年金です。障害年金の一部には「所得制限による受給停止」があるので、不動産を売却して所得が増えた場合は注意が必要です。
不動産売却で障害年金が減額されるケースは?
基本的に障害年金には所得制限はありませんが、次の2種類のケースの場合は所得制限による受給停止となります。
- 障害の原因になる初診日が、20歳より前の場合
- 「特別障害給付金」を受給している場合
生まれつきの障害で障害年金を受給している人などは、不動産売却すると所得制限が適用となる場合があります。また、特別障害給付金を受給している人も同様です。
どちらも、年金保険料を納付しておらず障害年金制度の特例にあたります。一定以上の所得がありながら特例として障害年金も受け取るのは、一般の障害年金受給者との間に不公平が生じます。
そのため、前年に規定以上の収入があり、上記の2種類のケースに該当する場合は所得制限が適用されます。所得制限が適用される前年の所得額と、所得制限の内容は以下の通りです。
前年の本人所得額 | 所得制限の内容 |
---|---|
3,704,000円以下 | 全額支給 |
3,704,001円から4,721,000円 | 2分の1の年金額停止 |
4,721,001円以上 | 全額停止 |
国民健康保険と後期高齢者医療制度の保険料が上がる
国民健康保険料と後期高齢者医療制度の保険料は、前年の所得金額をもとに計算されます。そのため、不動産を売却した利益があり譲渡所得を申告すると、翌年は保険料が上がります。
なお、マイホームの売却の場合、譲渡所得が3,000万円までは「特別控除」の対象となり、課税の対象となりません。特別控除の特例を受けるには、自分で住んでいる家屋であることや、親子間での売買は除くなどの条件があります。
条件に当てはまり、譲渡所得が3,000万円以内であれば、保険料は値上げされません。
年金受給中に不動産売却する際の税金
年金を受け取っていても、不動産を売却して利益を得た場合は、税金を納めなければなりません。本章では、年金受給中に不動産売却をする際の税金について、どのようなものがあるか詳しく見ていきます。
譲渡所得税
不動産を売却して生じた所得が「譲渡所得」です。譲渡所得には、所得税と住民税が課せられます。
譲渡所得は不動産を所有した年月により、税率が異なります。5年以下の所有であれば「短期譲渡所得」、5年超だと「長期譲渡所得」で、長期の中でも10年超だと軽減税率の特例が適用される場合があります。
住民税
住民税は不動産を売却したとき、その譲渡所得に応じて自治体へ支払います。短期譲渡所得(所有期間5年以下)の場合9%、5年超の長期譲渡取得の場合は5%の税率です。
確定申告が必要
不動産を売却して譲渡所得があった場合、譲渡所得税の確定申告が必要です。ただし、不動産売却後の利益が取得費と譲渡費用を下回れば、譲渡所得はゼロとなるため確定申告は必要ありません。
年金受給中に不動産売却するとき気を付けることは?
年金受給中に不動産を売却する際には、いくつかのポイントに注意が必要です。年金受給者は売却後の生活設計についても、慎重に判断したうえで売却を決断しなくてはなりません。
本章では、年金受給中の不動産売却について、事前に知っておきたい注意点をまとめています。
税金や国民健康保険料が上がる可能性がある
前章までで解説した通り、年金受給中に不動産を売却すると所有期間や売却価格によって、譲渡所得税が発生することを理解しておかなくてはなりません。また、翌年の国民健康保険料や後期高齢者医療制度の保険料が上がる可能性もあります。
予期せぬ負担を避けるためには、売却による譲渡所得や税金の影響をあらかじめ算出しておき、具体的な金額を把握しておくことが重要です。また、売却時期を慎重に考え、年金受給額や生活状況に影響を与えないように対策を考えておくことも必要でしょう。
例えば、売却する不動産が自宅(マイホーム)であれば、譲渡所得3,000万円までの特別控除が適用されますが、控除後の譲渡所得額に応じて税金や保険料が決まります。このため、「控除が適用されれば保険料が必ず上がらない」というわけではないことに注意が必要です。
売却前の具体的な準備として
- 譲渡所得の試算:不動産の売却価格から取得費や譲渡費用を差し引き、譲渡所得を計算します。3,000万円特別控除の適用で課税対象となるか確認し、譲渡所得税や住民税の試算も行います。
- 保険料への影響確認:翌年の国民健康保険料や後期高齢者医療制度の保険料が増加する可能性について、事前に自治体の窓口や税理士に相談し、具体的な影響額を把握しておくと安心です。
- 売却時期の検討:年内に売却すると翌年の所得として扱われるため、売却のタイミングも慎重に検討し、年金受給額や生活設計に無理が生じないように対策を講じます。
賃貸物件契約時のリスク
老後に持ち家を売却する場合、その後の住まいについても慎重に検討しておく必要があります。年金受給者は、事故や孤独死リスクに加え、経済的な不安を理由に賃貸契約を断られるリスクもあります。
年金受給者が賃貸物件を探す際には、高齢者が安心して長く居住できる「終身建物賃貸借制度」の利用も一つの選択肢です。この制度は、借主が亡くなるまで契約が存続し、賃貸契約が相続の対象にはならないため、高齢者の居住支援として期待されています。制度を利用するには都道府県知事の認可を受けた物件である必要があるため、対象物件数が限られているのが課題です。
物件の選択肢や具体的な利用条件については、自治体の相談窓口や不動産会社に確認することをお勧めします。また、インターネットでも情報収集を行うことで、物件探しの選択肢を広げることができます。
判断能力低下が原因の不動産トラブル
悪質な業者による強引な勧誘で安価に自宅を売却してしまうケースや、解約を申し出たが高額な違約金を請求されたケースの相談が、全国の消費生活センターなどに寄せられています。高齢になると、認知能力や判断能力の低下が原因で、このような不動産売却トラブルが起きる可能性が高くなります。
消費者が自宅を不動産業者に売却した場合、クーリング・オフは適用されません。契約内容を十分に理解せずに売却すると、特に高齢者は次に住む場所が見つからなかったり、解約時に違約金を支払うことで生活資金が減少するなど、今後の生活に大きな影響を及ぼす可能性があります。
判断能力が不十分なことが原因で起こる、高齢者の不動産トラブルを防止するためには、「成年後見人制度」の導入も有効です。成年後見人制度を利用すると、親が認知症になった場合、子が後見人となり親の代わりに実家の売却をすることも可能となります。
成年後見人制度とは?
成年後見人制度とは、判断能力が不十分な高齢者や障害者を支援するための法律制度で、本人の権利や利益を守り、適切な生活を送るためのサポートを提供するものです。この制度を利用することで、後見人が日常生活の支援や財産管理、各種契約の締結を代行できるため、不動産売却におけるトラブルを未然に防ぐことが可能です。
制度を導入するには、家庭裁判所へ申立てを行い、後見人の選任を受ける必要があり、手続きには一定の時間や費用がかかります。導入を検討する際は、事前に家族や専門家と相談し、手続きの流れや注意点について十分に理解しておくことが大切です。
親族間の売買は規制が多い
親から子供へ自宅を譲渡する場合や、相続対策で不動産を売却する場合など、親族間での不動産売買はよくあることです。ただし、親族間での不動産売買は3,000万円までの特別控除が使えず、住宅ローンの審査が通りにくいといったデメリットがあります。
また、親族間での売買ということで相場より安い価格を設定したくなるものですが、その結果みなし贈与だと判断されて贈与税が発生する可能性もあるので注意が必要です。
不動産会社に査定を依頼する
年金受給中に不動産の売却を検討されている方は、まず信頼できる不動産会社に査定を依頼することを強くおすすめします。現在の不動産の価値を正確に把握し、適正価格を知ることで、売却が本当に最良の選択かどうかを判断するための情報が得られます。
後楽不動産では、年金受給中の不動産売却をはじめ、お客様が抱えるさまざまなお悩みやご相談に心を込めてお応えしています。岡山県の不動産市場に精通したスタッフがお客様の状況に寄り添い、満足いただける適正価格での売却を全力でサポートいたします。
どんな小さなお悩みでも構いませんので、ぜひお気軽に後楽不動産にお問い合わせください。
年金受給者の不動産売却でかかる諸費用について
不動産売却の諸費用には仲介手数料や印紙代、登記費用などが含まれ、一般的には売却価格の4~6%が目安とされています。本章では、こうした不動産売却にかかる諸費用についてまとめています。
仲介手数料
仲介手数料とは、不動産会社に対して販売活動の報酬として支払う費用です。
仲介手数料の上限は法令で上記のように定められています。上限内の金額であれば、手数料は不動産会社が独自に設定できます。
印紙税
印紙税とは、不動産売買契約書に貼付する印紙の負担金です。売買金額により必要になる印紙の税額は増減します。
不動産の売却金額 | 印紙税額 |
---|---|
500万円を超え、1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円を超え、5,000万円以下 | 1万円 |
5,000万円を超え、1億円以下 | 3万円 |
住宅ローン返済手数料・登記費用
自宅の住宅ローンが残っている場合、売却の際にはローンを一括返済しなければなりません。これは、住宅ローン返済中は借入先の金融機関が「抵当権」を所有しているため、抵当権を抹消しない限り、他の人への売却ができないからです。
住宅ローンの返済手数料は1~3万円程度で、抵当権を抹消するための登記費用は、司法書士に依頼した場合、5,000円~2万円程度が目安となります。
解体費用
古家を解体してから土地のみで売却したほうが有利と判断される場合は、解体費用も必要になります。解体費用は木造住宅の場合、30坪で90万円程度が目安です。
年金受給者が不動産売却するメリット
前章までは、年金受給者が不動産を売却する際の税金や保険料の問題、認知能力低下による売買契約のトラブル、高齢者の住まい探しの難しさなど、マイナス面を中心に解説してきました。ですが、年金受給者が不動産を売却することは、デメリットばかりではありません。
本章では、年金受給者が不動産を売却するメリットについてもご紹介します。メリットとデメリットを比較検討してから売却することで生活環境が整い、より豊かな老後生活が送れるでしょう。
相続時のトラブル回避
年金受給者が不動産を売却する最大のメリットは、相続時のトラブルを未然に回避できる点です。不動産は分配が難しく、相続人の間でトラブルになりやすいものです。事前に売却して現金化しておくと、遺産を分配しやすくなりトラブルが回避できます。
一方で、持ち家を相続してくれる家族がいない、家族はいるが遠方に住んでいるなどの場合は、居住者がいなくなった後に売却するとなると、多大な手間と費用がかかります。近年増えてきている相続人がいない不動産は、空き家や空き部屋を作り、身内だけでなく周辺住民にまで悪影響を及ぼしかねません。
自身が心身ともに健康なうちに不動産を売却しておくことは、相続人の有無に関わらず将来の安心につながります。
老後の生活に合わせて住み替え
老後の生活スタイルや健康状態を考慮し、持ち家から賃貸に住み替えるのは大きなメリットがあります。子育て中は便利だった郊外の戸建て住宅は、子どもが巣立って夫婦だけになると広すぎる家の手入れや周辺施設の不足など、問題が出てきます。
持ち家から賃貸へ住み替えると、必要に応じてバリアフリー物件や介護サービスが近くになる物件を選べて、今までより便利な生活ができるようになるでしょう。また、持ち家の場合修繕や維持管理が必要ですが、賃貸であればメンテナンスの手間は不要で、トラブルがあったら管理会社に対応を依頼できます。
老後の資金確保
不動産を売却して利益が出ると、老後の資金として使えます。売却代金を使って小さい家に買い替えたり、生活資金にあてたりできるでしょう。
老後の生活では、予期せぬ病気で入院や手術の可能性もあります。自身や家族が老人ホームに入所することになれば費用もかかります。
いざというときに柔軟に対応できる老後の資金があれば、安心して日々の生活を送れるでしょう。
年金受給中に不動産売却しても年金は減額されない
本記事では、年金受給中の方が不動産売却を行う際の注意点やメリット、売却にかかる費用や税金について解説しました。年金受給中に不動産を売却しても、一部の障害年金受給者以外には減額などの影響はありません。
ただし、高齢になってからの不動産売却は、判断能力の低下によるトラブルも多いのが現状です。とくに、不動産を相続予定の人がいる場合は相続人間での問題を避けるために、事前に家族とよく相談してから売却を検討すべきです。
年金受給中の不動産売却は、相続の問題を解決するきっかけになり、老後の生活に便利な場所への住み替えができるといったメリットもあります。不動産の状態や家族構成などにより、売却が適当かどうかを判断する必要があるため、まずは不動産会社へ相談し査定を依頼するとよいでしょう。
この記事を監修した人
後楽不動産 売買事業部 岩富
長年の不動産売買経験と宅建士、賃貸不動産経営管理士の資格を持つ。豊富な知識と実績で、不動産売買に関するサポートを行う。