借地権の不動産は売却できる?地主へ売却する方法は?
「親から相続した家が借地権の不動産だったけど、これって売れるの?」「借地権付きの家に住んでいるが、売却して引越したい」という悩みを耳にすることがあります。
借地権付き不動産は、通常の不動産とは異なり、地主から借りた土地に家を建てているため、売却にはいくつかの特別な手続きが必要です。簡単に売却できるかというと、そうではありません。
結論として、借地権付きの不動産は売却可能ですが、地主の承諾が必要であったり、譲渡承諾料の支払いが求められるなど、通常の不動産売買よりも複雑です。また、売却価格にも地域や契約内容に応じた変動があるため、事前にしっかりとした準備が必要です。
本記事では、借地権の不動産をスムーズに売却するために知っておくべきポイントや、成功させるための適切な方法について解説します。借地権の不動産の売却でお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
目次
借地権の不動産を売却することは可能
借地権は法的に認められた権利であり、売却することができます。借地人は、借地契約に基づいて土地を使用する権利を持っており、この権利を譲渡することが許可されています。
ただし、譲渡・建て替え・用途の変更などの際に地主の許可が必要な場合があります。また、借地権の不動産売却は市場価値が通常の不動産とは異なるため、適正価格の設定が重要です。
借地権の不動産売却は可能ですが、珍しいケースになるため慎重に進めていく必要があるでしょう。
そもそも借地権とは何か?
借地権とは、土地の所有者(地主)から土地を借りて、その土地に建物を所有する権利を指します。借地権を持つことで、借りた土地に自分の建物を建てたり、利用したりすることができますが、土地そのものの所有権は地主のものです。
借地人は、土地を利用させてもらう代わりに、地主に対して権利金と月々の地代を支払います。借地権の設定された土地のことを「底地」といい、地主は「借地権設定者」「底地権者」と呼ばれることもあります。
「借地借家法」という法律によって定められたこの権利は、建物所有を目的とする場合のみ適用となり、駐車場や資材置き場としての利用の場合は適用外です。
借地権の種類について
借地権には主に以下の3種類があります。
普通借地権
一般的な借地契約で、存続期間は30年です。契約更新が可能で、最初の更新は20年、以後は10年で更新できます。
借地権の存続期間が終了する際には、地主と借地人の間での合意がなくとも、借地人が更新請求を行えば借地契約は更新可能です。地主側が更新を断る場合は正当事由が必要で、借地人側が圧倒的に有利な契約となっています。
そのため、現在では普通借地権に代わり更新を前提としない「定期借地権制度」が主流となっています。
定期借地権
契約期間が満了すると借地関係が終了し、土地は地主へ返還されます。一度貸し出してしまうと戻ってこない可能性が高い普通借地権に比べ、財産管理をしやすいメリットがあります。
定置借地権には、「一般定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」「事業用定期借地権」の3種類があり、いずれも更新はありません。土地を借りる側にも権利金が安くなるメリットがあるため、今後さらに活用されていくと思われます。
旧借地権
昭和27年以前に設定された借地権で、法律により借地人に強い保護が与えられています。更新が可能で、地主が土地を取り戻すことは難しいです。
借地権の不動産 ベストな売却方法は?
借地人は地主から土地を借りて建物を建てています。何らかの事情で借地権付きの建物を売りたくなったときは、地主の許可が必要です。
ここでは、借地権の不動産を売却する方法について解説していきます。
第三者(個人・不動産会社)への売却
借地権付きの不動産を第三者に売却する際には、地主の許可が必要です。借地人が無断で売却することはできず、地主との協議が必要なことを理解しておくべきです。また、この際に支払う「譲渡承諾料」についても留意する必要があります。
譲渡承諾料の金額は、一般的に借地権価格の10%が相場とされていますが、実際の金額は地域や契約内容、地主との交渉状況によって異なることが多いです。たとえば、都市部では相場が高くなることもあれば、地方ではそれを下回ることもあります。したがって、「譲渡承諾料は売却価格の1割程度」と一律に決められるものではなく、ケースバイケースで地主と交渉の上で決定されることを理解しておくことが大切です。
さらに、新たな借地人が建て替えを希望する場合、別途で建て替えの承諾を得る必要があります。地主が承諾しなければ、建物の建て替えはできません。同様に、抵当権設定の承諾も重要なポイントです。もし承諾が得られなければ、新たな借地人は住宅ローンを利用できず、現金購入者に限られてしまうため、買い手の幅が狭くなり、売却価格を下げざるを得ないケースもあります。
地主から土地を買い取り、所有権の不動産として売却
借地人が地主から土地を買い取り、所有権の不動産として売却する方法は有効な選択肢の一つです。この方法では、土地と建物を一括して売却できるため、通常の借地権付き不動産よりも高い売却価格が期待できます。所有権を得ることで、借地権付きの不動産よりも売却の自由度が大きくなり、買主にとってもメリットが大きいです。
ただし、地主との交渉が必要であり、簡単に進められるものではありません。地主が土地を手放したくない場合や、売却に消極的である場合、交渉が難航することがあります。そのため、事前に交渉準備をしっかりと行うことが重要です。
地主への売却
借地権を地主に売却することができれば、借地人にとって最もスムーズな取引となります。地主は土地を取り戻すことができ、借地人は手間をかけずに売却できるため、双方にとってメリットがあります。
地主に借地権を買い取ってもらう方法
地主に借地権を買い取ってもらえれば、大変な買主・借地人探しをすることもなく、スムーズに売却ができます。しかしながら、地主との交渉は難しい部分も多く、適切な方法を理解したうえで話し合いを進めることが重要です。
本章では、地主に借地権を買い取ってもらうにはどのように行動すればいいのか、詳しく解説していきます。
売却方法の基本的な流れ
- 地主との交渉: まずは売却の意向を伝え、話し合う
- 売却条件の確認: 売却価格や条件について合意を得る
- 契約書の作成: 売却に関する契約書を作成し、双方で確認
- 登記手続き: 売却が成立したら、必要な登記手続きを行う
地主に借地権を売却するには、交渉が最も重要です。地主には借地権を買い取る法的義務はなく、価格の折り合いが付かなければ交渉は難航するでしょう。
また、借地権を買い取りたいと思っている地主ばかりではないため、足元を見られて低価格での買い取りを提案されるかもしれません。交渉がうまくいったとしても、その後の契約書の作成や登記手続きなどには、専門的な知識が不可欠です。
地主への売却を考えているなら、借地権に詳しい不動産会社に交渉の段階から介入してもらい、スムーズな売却を成功させましょう。
売却を成功させるためのコツとは?
売却を成功させるためのコツ
- 事前準備: 借地権の価値を把握し、適切な売却価格を設定することが重要
- コミュニケーション: 地主との関係を良好に保ち、信頼を築くことが成功の鍵
- 専門家への相談: 不動産会社や弁護士に相談することで、スムーズな取引が可能に
売却を成功させるには、地主との普段からの関係が大きなポイントとなります。地代の滞納や無断で増改築を行うなどの契約違反行為があると、関係性が悪化してしまうでしょう。
借地人が所有する借地権を有効活用したり、適正な価格で売却したりできるのは、地主との良好な関係が築けているかどうかにかかっています。適正な価格を設定するためには、専門家からの助言を受けることも時には必要です。
地主とつながりのある不動産会社に間に入ってもらうことで、売却交渉がスムーズに進む場合もあります。
交渉がうまくいかなかったときはどうする?
もし交渉がうまくいかなかった場合、以下の選択肢があります。
交渉がうまくいかなかったときの手段
- 第三者への売却: 地主以外の第三者に売却する
- 借地権を持ったまま賃貸に出す: 賃貸料を地代や更新料に充てる
- 借地非訟の利用: 法律に基づいて借地権の問題を解決する手段を講じる
第三者への売却
借地権の買い取りにおいて、地主との交渉がうまく進まなかった場合は、第三者への売却を検討しなくてはなりません。その場合も地主からの許可が必要なため、関係が良好でないと断られる可能性があります。
借地権を持ったまま賃貸に出す
第三者への売却ができなかった場合は、そのまま借地権を所有して賃貸物件として貸し出すことも選択肢のひとつです。ただし、地代や税金は払い続けないといけないうえ、リフォーム代金なども必要となってきます。
借地非訟の利用
借地権を売却したい、または借地上の建物の増改築を希望しているにもかかわらず、地主の承認が得られない場合には、借地非訟手続きを利用することができます。この手続きを通じて、地主の同意が得られなくても、裁判所から代わりの承認を得ることで、売却や増改築を進めることが可能です。
ただし、借地非訟手続きは法的なプロセスであり、実際には時間や費用がかかることがあります。裁判所を通じた正式な手続きとなるため、すぐに解決できるわけではありません。ケースによっては弁護士などの専門家に相談することが必要になる場合もあります。手続きを進める前に、必要な準備や費用についても十分な理解を持ち、専門的なアドバイスを受けることをお勧めします。
借地権の不動産売却時にかかる費用は?
ここからは借地権の不動産売却時にかかる費用・税金について解説していきます。
譲渡承諾料
借主は借地権の不動産を売却するにあたり、地主に承諾を得る必要があります。借主が承諾をもらう対価として地主に支払うのが譲渡承諾料です。
譲渡承諾料の算出は、契約の残存期間や賃料などの条件を総合的に判断して行われます。譲渡承諾料は名義書き換え料とも呼ばれ、相場は借地権不動産売却価格の1割程度です。
なお、借地権を地主へ売却する場合、譲渡承諾料はかかりません。
仲介手数料
不動産会社を通じて売却する場合、仲介手数料を不動産会社に支払います。この手数料は、売却価格に応じて計算されます。
譲渡取得税
譲渡所得税は、不動産の売却時に得た利益に課される税金で、所得税と住民税が含まれます。譲渡所得は、譲渡価格から取得費と譲渡費用を差し引いて計算されます。
取得費は購入価格に仲介手数料などを加え、建物の減価償却費用を引いたものです。借地権の場合、契約料や更新料は含まれますが、月々の地代は含まれません。
譲渡所得税は所有期間によって短期(5年以内)と長期(5年超)に分かれ、それぞれ税率が異なります。短期譲渡所得は所得税30.63%、住民税9%で合計39.63%、長期譲渡所得は所得税15.315%、住民税5%で合計20.315%です。
借地権の売却時に不動産会社を利用するメリット
借地権の不動産を売却したいときは、不動産会社に仲介を依頼しましょう。借地権の不動産売却には、借地借家法の理解や地主とのやり取りなど、借地人には難しく感じる部分も多いものです。
不動産会社に依頼すると、適正な売却価格の設定や新たな買主の紹介、地主との交渉代行、契約書の締結や法的手続きのサポートが受けられます。
不動産会社の選び方
借地権付きの不動産の売却には、通常の売却とは異なる手続きや買主へのアプローチが必要になります。借地権の不動産を売却する場合は、借地権売却に対する知見や経験のある不動産会社を選ぶとよいでしょう。
借地権不動産を第三者に売却する際の不動産仲介の流れ
借地権の不動産売却に不動産会社を利用する場合、以下の流れで進めます。
STEP
地主に譲渡承諾を得る
まずは新たな買主を探す前に、地主に借地権譲渡の承諾を得る必要があります。建て替えの承諾、抵当権設定についてもこのときに話し合っておくべきです。
譲渡の承諾が得られれば、譲渡承諾料をお互いの合意のうえで決定します。借地権価格の1割程度が相場ですが、法的義務はなく慣習で行われているものなので、金額はケースバイケースです。
STEP
売却活動
地主からの承諾が得られれば、不動産会社による売却活動が開始できます。借地権の不動産売却は、地主・借地人・買主の三者の合意が必要なため、通常の取引より時間がかかることが予想されます。
買主が見つかれば、売却価格や譲渡する時期について詳しく調整していきます。
STEP
契約締結
買主と価格や時期の調整が済めば、売買契約の締結をします。借地権の契約は、通常の不動産売買と異なり、地主による譲渡承諾書の作成も必要です。
STEP
決済と引き渡し
売買契約に基づき、決済と引き渡しを行います。建物付き借地権の場合は、建物の所有権移転登記が必要です。決済と土地の引き渡しが済めば取引は完了します。
借地権の不動産は地主への売却ができればベスト
借地権の不動産は地主への売却が最もスムーズな選択肢です。借地権付きの不動産は、地代の支払いが必要であったり、リフォームや建て替えが自由にできないため、売却が難しいとされています。特に、相続によって借地権の管理に困っている方が多いでしょう。
借地権の売却にはいくつかの方法がありますが、地主への売却が最も効率的です。普段から地主との信頼関係を築き、お互いが納得できる条件で取引を進めることが、成功の鍵となります。ただし、すべての地主が積極的に買い戻しに応じるわけではないため、交渉が難航するケースも考えられます。
また、地主との交渉や売却価格の設定については、借地権売却に実績のある不動産会社をパートナーに選ぶことも重要です。借地権特有の複雑さを理解し、スムーズに売却を進めるために、慎重に不動産会社を選びましょう。