相続人不在の不動産を売却する方法

相続人不在の不動産を売却する方法

2023年、相続人不在のために国庫に納められた遺産は約769億円に達しました。空き家や住民がいなくなったマンションなど、相続人がいない不動産は家族間の問題にとどまらず、周辺住民にも悪影響を及ぼす社会問題として注目されています。

相続人不在の不動産において、生前に被相続人の世話をしていた内縁の妻や親せきなど、特別な縁故がある方々は相続財産を受け取れる可能性があります

相続人不在の不動産を適切に管理・清算するために重要なのが「相続財産清算人」という制度です。相続財産清算人は、相続人がいない不動産の売却や遺産の分配を行う役割を担います。これにより、特別な縁故のある方や債権者に対して遺産を分配することが可能になります。

本記事では、この「相続財産清算人」制度を活用して、相続人不在の不動産を売却する方法や、相続人不在の不動産を生み出さないための対策について詳しく解説します。

目次

相続人不在の不動産は増え続けている

相続人不在の不動産問題は、近年ますます深刻化しています。特に、急速に高齢化が進む地方では、親世代が亡くなった際に相続人がいない、または相続を放棄するケースが増加しています。

令和5年に総務省が実施した「住宅・土地統計調査」によると、総住戸数のうち空き家の数は約900万戸で、1993年からの30年間では約2倍に増えています。空き家数のうち、住民が入院や施設入居などで長期的に不在の住宅や、取り壊し予定の空き家などが約385万戸あり、総住戸数の5.9%です。

約17軒に1軒が住民不在の空き家という計算になり、地方に行くほどその割合は高くなっています。

2023年のニュースによると、相続人不在のため国庫に納められた遺産の総額が、2022年度は約769億円になり、記録が残る2013年度以降最多と報じられました。相続人不在の財産を管理する「相続財産清算人」の選任件数も年々増え続けており、2022年は6653件にのぼります。(「相続人いない財産」過去最多768億円が国庫へ 昨年度 | NHK )

今後も、相続人不在の不動産は増え続けていくと予想されています。持ち家を所有している人は、自分の死後の不動産の行く先を考えておくべきでしょう。

相続人不在とはどのような状況?

これほどまでに相続人不在の不動産が増えた原因には、日本の全国的な少子高齢化が根本にあります。相続人がいなかったり少なかったりする家庭が増え、親世代が亡くなった際に相続を受ける子どもがいないというケースが多くなってきました。

具体的には次のような状況があります。

法定相続人がいない

相続人不在の最も一般的な理由は、亡くなった方(被相続人)に法定相続人が存在しない場合です。例えば、被相続人が独身で子供がいない場合や、親族が全て亡くなっている状況が考えられます。

日本の民法では、法定相続人は配偶者・子ども・直系尊属(親や祖父母)・兄弟姉妹の順に定められています。いとこや甥・姪などは法定相続人に含まれないため、生前交流があったとしても、被相続人の遺言書がない限りは財産を相続することはできません。

法定相続人が相続放棄している

法定相続人が存命でも、すべての相続人が相続放棄をすると、相続人不在となります。不動産などの遺産が残されていたとしても、被相続人に借金があると相続人は負債も引き継がなければならないため、相続放棄を選択する場合もあるでしょう。

近年は、借金などの負債はなくても、売れる見込みのない不動産を相続したくないという理由で、相続放棄を選択する人も増加している傾向です。

相続人が欠格・排除に該当

欠格とは法定相続人が相続権を失うこと、排除とは遺言書によって特定の相続人が相続から除外された状態を指します。相続人が欠格や排除に該当し、他に相続人がいなければ相続人不在の状況になってしまいます。

欠格になる理由は?
  • 故意に被相続人を死亡させた場合
  • 重大な不正行為(詐欺や脅迫など)を行った場合

欠格は法律によって自動的に相続権を失う状態、排除は被相続人の意思によって相続権を失う状態です。どちらの場合も、相続人は被相続人の財産を相続する権利がなくなります

相続人不在の不動産の行き先は?

相続人不在の不動産等の財産は最終的にどこへ向かうのか、以下にまとめてみました。

遺言書で指定された内容

被相続人が遺言書を残している場合、遺言書の内容に従って不動産が処理されます。ただし、他にも相続人がいる場合は最低取得分である「遺留分」に注意が必要です。

遺留分とは?・・・法律で定められた、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保証された遺産取得分。

特別縁故者

特別縁故者とは、被相続人と特別な関係にあった者を指します。特別縁故者は家庭裁判所に申し立てを行うことで、財産が譲渡される場合があります。
ただし、特別縁故者として認めてもらうには、被相続人と特別な関係であったと証明できる資料を提出しなくてはなりません。なお、特別縁故者にも相続税を支払う義務があり、通常の相続税額の2割増しになります。

特別縁故者の例
  • 事実婚の形で長期間同居していたパートナー
  • 親族以外の友人
  • 養子縁組はしていないが家族同然に生活していた人
  • 被相続人を長年介護していた人 など

国庫に帰属

相続人が不在であり遺言書もない場合、不動産を売却した後の財産は、最終的には国庫に帰属することになります。国庫帰属の手続きは「相続財産清算人」が相続人の代わりに行います

相続人不在で選任される「相続財産清算人」

相続人が不在の場合、相続財産清算人が選任され財産の管理や清算を相続人に代わって行います。本章では、相続財産清算人の役割や費用について解説していきます。

相続財産清算人の選任方法

相続財産清算人は、利害関係人または検察官が家庭裁判所に申立てを行うことで選任されます。申立て先は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。

申立てには、申立書のほかに相続人不在であることを証明する戸籍謄本や、利害関係を証明する資料などが必要です。

相続財産清算人の権限は?

選任された相続財産清算人は、相続財産の管理や清算を行う権限を持ちます。具体的には、不動産の売却や、債権者への分配を行うことができます。

特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあった場合は、審判にしたがい特別縁故者へ相続財産を分与するための手続きをします。清算後に相続財産が残った場合は、相続財産を国庫に引き継ぐまでが相続財産清算人の役割です。

相続財産清算人を選任する条件は?

相続財産清算人には、特別な資格は必要ありません。申立人が清算人候補者を立てることも可能です。しかし、必ずしもその候補者が選ばれるとは限りません。

家庭裁判所が相続財産の規模や予想される業務内容をもとに、最も適任だと考えられる人を選任し、ほとんどの場合においては弁護士や司法書士などの専門家が選ばれます。

相続財産清算人専任の費用

相続財産清算人の申立てには、次の費用がかかります。

  • 戸籍謄本などの発行手数料
  • 収入印紙800円分
  • 連絡用の郵便切手2,000円程度
  • 官報公告料5,075円
  • 予納金

予納金とは、相続財産清算人が職務を行う上で必要な経費や、相続財産清算人への報酬を支払うために、あらかじめ家庭裁判所へ納める費用のことです。相続財産が十分であれば、その中から経費や報酬が支払われ、予納金は全額返還されます。

財産が少なく報酬額に満たない場合は予納金が使われ、金額は数十万から百万円程度になります。

相続人不在の不動産を売却する流れ

相続財産清算人が選任され、相続人不在の不動産を売却する際の流れは以下の通りです。

  1. 相続財産清算人選任の審判
  2. 相続財産清算人選任および相続人捜索の公告
  3. 相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告
  4. 相続財産の換価
  5. 債権者に対する弁済
  6. 特別縁故者に対する財産分与
  7. 国庫への引継ぎ

相続財産清算人選任および相続人捜索の公告

家庭裁判所は、相続財産清算人の選任を知らせるための公告および相続人を捜すための公告を、6か月以上の期間を定めて行います。相続人がこの公告の期間満了までに現れない場合、相続人の不在が確定します。
また、相続財産清算人は、2か月以上の期間を定めて相続債権者・受遺者の確認のための公告を行う必要があります。

相続財産の換価と債権者に対する弁済

相続財産清算人は家庭裁判所の許可を得て、被相続人の不動産を売却して金銭に換えます。その後、相続財産清算人は法律に従い債権者や受遺者への支払いを行い、特別縁故者の申立てがあれば財産分与の手続きをします。

特別縁故者に対する財産分与

特別縁故者への財産分与は、債権者への弁済が終わりそれでも相続財産が残っていた場合に限られます。また、財産が残っていた場合でも、その段階で特別縁故者に該当するかどうかや分与の額について裁判所の審査を受けることになるため、必ずしも分与を受けられるとは限りません

国庫への引継ぎ

弁済や分与が終わり、残った財産があれば国庫へ引き継ぎます。すべての手続きが終了するまでにかかる期間には、事案によりさまざまです。不動産の売却を伴う事案の場合は、数年かかることもあります

相続人不在の不動産を生まないための対策

相続人不在の不動産が増え続けている現在の日本では、住民が亡くなった後の部屋の処分や、空き家問題などが大きな課題です。マンションの場合だと、住民が亡くなって相続人が現れないまま放置される部屋が増えてきており、傷んでしまった室内の原状回復費を他の住民が負担した事例もあります。

身内だけでなく、周辺住民にまで迷惑をかけることになる相続人不在の不動産を生まないためには、各自が適切な対策を考えておくべきでしょう。本章では、相続人不在の不動産を生まないための対策について解説していきます。

遺言書の作成

遺言とは、被相続人が生前に自分の財産を誰にどれだけ残すかについて、意思表示をする文書のことです。相続が発生した際には、遺言書の内容に従って財産が分配されるため、相続人不在によるトラブルを防ぐ役割を果たします。

遺言は、厳格なルールに基づいて作成しなくてはなりません。そのため、自分で記述する「自筆証書遺言」は形式のミスで無効になったり、発見されなかったりするリスクがあります。

確実に遺産を残すためには、費用と手間はかかりますが「公正証書遺言」を選択することで、紛失のリスクが低く有効性のある遺言書を残せます

公正証書遺言とは、公証人が作成する法的効力のある遺言書です。公証人の確認と証人の立会いにより、内容の明確性と信頼性が保証され、紛失や改ざんのリスクが低くなります。証人が2名必要で、費用は16,000円から財産に応じて加算されます。

養子縁組

養子縁組を行うことで、法定相続人を増やすことができます。たとえば、相続人がいない高齢の独身者が不動産を所有している場合、信頼できる友人や遠い親戚を養子にすることで、養子が不動産を引き継ぐことができます。

養子縁組の手続きを行った場合でも、遺言書を作成し相続分を明確にしておくことが重要です。

不動産の売却・贈与

生前に不動産を売却または贈与することで、相続人不在の状況を回避できます。ただし、売却するタイミングを間違えると損失が生じ、その後の生活資金に影響が出る可能性があります。

持ち家を売却する場合は、売却後の住まいについても考えておくべきです。高齢になってからの賃貸への住み替えは、年齢を理由に審査で断られることもあります

物件を選択する際には、高齢者可の物件かどうか、バリアフリー対応しているかセキュリティ面は充実しているかなど、細かくチェックしておきましょう。信頼できる不動産会社が近くにあれば、早めに売却や住み替えの相談を行い、アドバイスを受けておくと安心です

相続人不在の不動産は売却が難しい

相続人不在の不動産を売却する際には、「相続財産清算人」制度を利用することが必要です。しかし、この手続きは非常に複雑で、売却が完了するまでに数年を要することもあります。

また、特別縁故者としての財産分与には審査があり、必ずしも認められるわけではありません。さらに、不動産の売却金額によっては、受け取れる財産がない可能性も考えられます。場合によっては、清算人への報酬のために、最終的にマイナスになることもあり得ます

もし現在マイホームを所有していて、将来的に相続人が不在になることが予想されるなら、早めに遺言書を作成したり、不動産を売却したりするなどの事前対策が重要です。残された親しい関係者や近隣住民に迷惑がかからないよう、相続に関する知識を深め、適切な準備を行いましょう。

相続問題は誰にでも起こり得ることです。不動産の相続に関するお悩みは、お気軽に後楽不動産へお問い合わせください

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