相続した不動産の売却にかかる費用はどれくらい?登記費用・仲介手数料・解体費用・各種税金について解説

相続した不動産の活用方法には、売却・賃貸・保有などさまざまな選択肢があり、状況に応じて売却を検討する方も少なくありません。ただし、不動産を売却する際には、登記費用や仲介手数料、解体費用、税金など、さまざまな費用が発生する点に注意が必要です。
さらに、2024年4月から相続登記の義務化が始まり、売却前に登記を済ませておく必要があります。様々な手続きが必要となる相続不動産の売却において、費用を事前に把握しておくと、安心して進められるはずです。
本記事では、相続不動産の売却にかかる費用の詳細を解説し、特例や節税のポイントも紹介します。
この記事を監修した人

岩冨 良二
後楽不動産 売買事業部 係長
不動産業界歴26年のベテランで、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士の資格を持つエキスパート。豊富な知識と実績でお客様から厚い信頼を得ており、売買事業部のエースとして活躍中。複雑な取引もスムーズにサポートし、最適な提案を行う頼れるプロフェッショナルでありながら、社内のムードメーカーとしても周囲を明るくする存在。
相続した不動産の売却にかかる費用

相続した不動産を売却する際に発生する主な費用は、大きく分けて3種類です。
- 相続登記費用(司法書士報酬・登録免許税)
- 売却時の税金(譲渡所得税・住民税・印紙税)
- 売却関連費用(仲介手数料・測量費用・残置物撤去費用・解体費用)
これらの費用を事前に把握しておくと、スムーズな売却を進めることができるでしょう。
以下で詳しく解説していきます。
相続登記費用
相続登記とは、亡くなった方(被相続人)から不動産を相続した人が、その名義を自分に変更する手続きです。これは、売却や活用を進めるうえで「法的な出発点」となる極めて重要な手続きです。
相続登記を行わないまま放置すると、不動産は法的には被相続人名義のままになり、売却はもちろん、担保設定や賃貸契約といった活用もできません。また、時間が経つほどに相続人が増えたり所在不明になったりして、手続きが複雑化・長期化するリスクも高まります。
2024年4月からは相続登記が義務化され、正当な理由なく登記を怠ると10万円以下の過料(罰金)が科される可能性もあります。特に、相続人が複数いる場合や遺産分割協議が終わっていない場合には、登記が進まず売却に大きな遅れが生じることもあるため注意が必要です。
相続登記にかかる主な費用は以下の2つです。
- 登録免許税:不動産の固定資産税評価額の0.4%
- 司法書士報酬:7万円~12万円(依頼する事務所による)
自分で手続きを行えば費用を抑えることも可能ですが、登記には法定相続情報や戸籍の収集、遺産分割協議書の作成など煩雑な準備と専門知識が求められます。
とくに、遠方に相続人がいるケースや、関係者が高齢・疎遠である場合などは、司法書士など専門家に依頼するのが現実的かつ確実です。ミスを防ぎ、スムーズに売却へつなげるためにも、早めの対応と専門家の活用がカギになります。
売却時の税金
相続した不動産を売却する際には、いくつかの税金が発生します。事前にこれらの税金を把握しておくことで、思わぬ出費を避け、計画的に売却を進めることが可能です。
ここでは、売却時に関係してくる主な税金として、「譲渡所得税」「住民税」「印紙税」の3つを紹介します。
譲渡所得税
譲渡所得とは、不動産を売却して得た利益のことを言います。
この利益にかかる税金が譲渡所得税で、売却する不動産の所有期間によって税率が異なります。
住民税
譲渡所得税と合わせて課税され、売却翌年に納付が必要です。
印紙税
不動不動産を売却する際には、売買契約書を作成し、契約金額に応じた印紙税を納める必要があります。印紙税額は、契約書に記載される売買金額によって異なり、現在は軽減税率の適用期間中(令和9年3月31日まで)です。
不動産売買契約書にかかる印紙税額一覧
売却価格(契約金額) | 印紙税額(通常税率) | 印紙税額(軽減税率) |
---|---|---|
10万円以下 | 200円 | 200円 |
10万円超~50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超~100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円超~500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超~1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超~5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超~1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超~5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
5億円超~10億円以下 | 200,000円 | 160,000円 |
10億円超~50億円以下 | 400,000円 | 320,000円 |
50億円超 | 600,000円 | 480,000円 |
主な注意点
- 印紙は、通常1通の契約書に対して必要で、売主・買主のいずれか一方が負担するか、折半するかは当事者間の合意で決めます。
- 軽減税率は令和9年(2027年)3月31日までに作成された契約書に適用されます。
- 10万円以下の契約書については、通常税率・軽減税率ともに200円です。
売却関連費用
不動産を売却する際には、税金以外にもさまざまな費用が発生します。
ここでは、特に発生頻度の高い「仲介手数料」「測量費用」「残置物の撤去費用」「解体費用」の4つについて詳しく解説します。各費用の目安や注意点を知っておくことで、より現実的な売却計画が立てられるようになります。
仲介手数料
仲介手数料とは、不動産の売買を仲介した不動産会社に対して支払う報酬のことです。売却活動を行う中で、不動産会社は買い手の募集・内覧対応・条件交渉・契約書作成などを担い、その対価として手数料を受け取ります。
この仲介手数料には、法律で上限額が定められており、売却価格に応じてその計算方法が異なります。
取引価格に応じた手数料の上限(税別)
取引価格 | 上限手数料(税別) | 計算式・備考 |
---|---|---|
200万円以下 | 取引価格の5% | 例:150万円 × 5% = 7.5万円 |
200万円超~400万円以下 | 取引価格の4%+2万円 | 例:300万円 × 4%+2万円 = 14万円 |
400万円超 | 取引価格の3%+6万円 | 例:3,000万円 × 3%+6万円 = 96万円 |
※上記の計算式に消費税が加算されます。
2024年7月以降の特例(800万円以下の取引)
2024年7月1日以降、売買価格が800万円以下の不動産については、売主・買主それぞれから上限33万円(税込)まで仲介手数料を受け取ることが可能となる特例が導入されました(最大でも1人あたり33万円まで)。
この特例を適用するには、不動産会社からの説明を受けたうえで、売主・買主の双方が合意することが必要です。合意が得られない場合は、前述の従来の速算式に従って計算されます。
測量費用
不動産売却時にかかる測量費用は、土地の境界を明確にし売買をスムーズに進めるために必要な費用です。測量の種類は簡易的な「現況測量」と、隣地所有者の立会いのもと行われる「境界確定測量」の2種類です。
「現況測量」の費用目安は10万円~45万円程度、「境界確定測量」は30万円~80万円程度かかる場合もあります。境界が不明確な土地や相続した土地の測量図が古い場合など、測量の必要性に迷う場合は不動産会社に相談してみましょう。
残置物の撤去費用
相続した家には、家具や家財がそのまま残されていることも多いものです。こうした残置物の処分をするために、家一軒丸ごとだと30万円~80万円程度の費用がかかることがあります。
残置物の種類や量によって費用は異なりますが、特に大型家具や家電が多く残っていると、処分費用が高くなる可能性があります。撤去費用を抑えるためには、できるだけ自治体の粗大ごみ回収やリサイクルショップの活用などを検討し、自分で対処できるものは事前に処分しておくと良いでしょう。
解体費用
不動産を売却する際、古くなった建物が残っていると買い手が見つかりにくくなることがあります。特に老朽化が進んでいたり、耐震性に不安があったりする場合は、「住める状態にするには大規模リフォームが必要」と判断され、敬遠される傾向があります。
こうした背景から、売却前に建物を解体して更地にしておくことで、「すぐに建築可能な土地」として価値を高め、買い手の選択肢を広げられるのです。とくに住宅用地として売却したい場合や、狭小地・変形地の場合には、解体済みの方がスムーズに売却につながるケースも多くあります。
また、空き家のまま放置すると、防犯や景観、災害リスクの観点からも問題になりやすいため、相続後の管理コストや近隣トラブルを避ける目的でも解体は有効です。
解体費用は建物の構造や広さ、立地条件によって異なり、一般的な相場は以下の通りです。
- 木造住宅:100万~300万円
- 鉄筋コンクリート造:200万~500万円
- アスベスト含有建物:処理費用が追加され、さらに高額になる場合あり
解体する建物の状態によっては自治体の空き家解体補助金制度を活用できる場合もあります。解体費用の1/3~2/3(上限50万~100万円程度)が補助される可能性もあるので、条件に合うようならば早めに申請しておくとよいでしょう。

相続した不動産に関する税金の特例

ここまでで、相続した不動産を売却する際に発生するさまざまな費用についてご紹介してきました。しかし、これらの費用を少しでも抑える方法が存在するのをご存じでしょうか?
実は、相続不動産の売却時には税負担を軽減できる特例制度が複数用意されています。適用要件を満たせば、譲渡所得からの控除や相続税の減額といった大きな節税効果が期待できます。
ここでは、代表的な5つの特例について詳しく解説します。制度を上手に活用し、ムダな支出を防ぎましょう。
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除
被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除は、相続した空き家を売却する際に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です。この制度を活用することで、売却時の税負担を軽減できます。
適用要件
この特例を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること。
- 区分所有建物(マンションなど)ではないこと。
- 相続開始時に被相続人のみが居住していたこと(他の居住者がいない)。
- 売却時に耐震基準を満たしていること(または売却前に解体)。
- 相続開始から3年以内に売却すること。
- 売却価格が1億円以下であること。
親族や特別な関係者への売却は対象外になること、他の特例(取得費加算の特例など)と併用はできないことに注意してください。この特例は令和9年(2027年)12月31日まで適用可能です。
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例は、相続した不動産を売却する際に支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度です。この特例を利用すると譲渡所得が減少し、所得税や住民税の負担を軽減できます。
適用条件として、相続税を納めていること、相続開始から3年以内に売却することなどが求められます。空き家特例との併用は不可なので、どちらが有利か検討のうえで活用しましょう。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、相続税の負担を軽減するために、一定の宅地の評価額を最大80%減額できる制度です。対象となる宅地は、被相続人の居住用宅地や事業用宅地などで、適用条件を満たせば評価額が大幅に下がります。
特例を受けるには、相続税の申告が必要です。条件を満たしているか事前に確認しておきましょう。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減は、配偶者が相続した財産に対する相続税を軽減する制度です。この制度は、配偶者の生活保障や二次相続時の負担軽減を目的としています。
具体的には、「1億6,000万円」または「法定相続分」までの金額であれば、配偶者に相続税はかかりません。適用には遺産分割協議が完了していることや相続税の申告を行うことが条件です。
適用条件を満たせば、配偶者の相続税負担を大幅に軽減できる制度です。
相続税の延納・物納制度
相続税の延納・物納制度は、相続税を一括で支払うのが困難な場合に利用できる制度です。延納は、相続税額が10万円以上で、金銭納付が困難な場合に最長20年の分割払いが可能ですが、利子税が発生します。
物納は、延納でも納付が難しい場合に、不動産や有価証券などの財産で納税できる制度です。ただし、物納できる財産には制限があり、税務署の審査が必要です。
相続した不動産を売却するポイントは?

売却にかかる諸費用や、税負担を抑える特例制度について理解できたら、次は実際にどのように売却を進めていくかが重要です。
ここでは、売却をスムーズに進めるために知っておきたい実践的なポイントをまとめました。失敗を避け、納得のいく売却を実現するために、ぜひチェックしておきましょう。
特例などを利用する
不動産売却時の税負担を軽減するために、活用できる特例について調べておきましょう。特例は、不動産の条件や相続の状況によって適用できるか否かが異なります。どの特例を利用できるかを事前に税理士や専門家に相談しておくと、税負担を減らせる可能性が高まります。
相続した不動産を売却する際に活用できる特例を以下にまとめました。適用条件を満たしているならば、ぜひ活用しましょう。
特例名 | 特徴 | 適用条件 |
---|---|---|
被相続人の居住用財産(空き家)特例 | 譲渡所得から最大3,000万円控除 | 昭和56年5月31日以前の建物、相続開始時に被相続人のみ居住、売却価格1億円以下 |
相続財産の取得費加算の特例 | 相続税を取得費に加算し、譲渡所得税を軽減 | 相続税を納付済み、相続開始から3年以内に売却 |
居住用財産の3,000万円特別控除 | 自宅を売却した場合、譲渡所得から最大3,000万円控除 | 売却前に居住していたこと、前年・前々年に適用していない |
小規模宅地等の特例 | 相続時の宅地評価額を最大80%減額 | 被相続人の居住用宅地(330㎡まで)、事業用宅地(400㎡まで) |
配偶者の税額軽減 | 配偶者が相続した場合、相続税がゼロになることも | 配偶者の法定相続分または1億6,000万円以下の相続財産 |
早めに行動する
2024年4月から相続登記が義務化され、相続した不動産の登記を放置すると、過料(罰則)の対象となる可能性があります。そのため、売却を検討している場合は早めに登記を完了し、売却活動を開始することが重要です。
また、売却までの流れを理解し、スケジュールを計画的に進めることも、スムーズな売却を実現するポイントです。売却は以下のような流れで行われます。
- 相続登記の完了
- 不動産の査定依頼
- 売却活動の開始(広告掲載・内覧)
- 売買契約の締結
- 決済・引渡し
さらに、売却時期によっては不動産市場の動向が影響するため、需要の高い時期を狙うことで、より良い条件で売却できる可能性があります。具体的には、2月~3月が最も不動産市場が動く時期で、次に需要が高いのが9月~10月頃になります。
少しでも高く売却するためには、不動産市場や金利の動き、物件の周辺環境の変化についても情報収集しておき、ベストなタイミングを見極めて売却時期を決定しましょう。
信頼できる不動産会社に相談する
相続不動産の売却は、登記手続きや税務対策などが関係してきます。相続不動産を売却したいときは、相続に関する専門知識を持つ不動産会社に相談しましょう。
適切な不動産業者を選ぶことで、以下のようなメリットがあります。
- 適正価格で売却できる
- 売却の流れをスムーズに進められる
- 買い手をスピーディに見つけられる
相続不動産を売却したいと思ったら、まずは不動産会社で査定を依頼しましょう。現在の家の価値を知ることで、今後の売却戦略に役立ちます。
相続に詳しい不動産会社に依頼すれば、手続きもスムーズに進み、売却活動に専念してもらえるはずです。また、地域密着型の不動産会社なら、独自のネットワークで地元の不動産情報に精通しているため、買い手が見つかりやすくなります。
安心して売却を進めていくために、相続不動産に詳しく信頼できる不動産会社に依頼しましょう。
まとめ
相続した不動産を売却する際には、登記費用・仲介手数料・解体費用・各種税金など、さまざまな費用が発生します。また、2024年4月からは相続登記の義務化が始まり、売却前の登記手続きがより重要になりました。
加えて、売却時の税負担を軽減できる特例制度も複数存在しますが、それぞれ適用条件が異なるため、制度の正しい理解と事前準備が欠かせません。
スムーズかつ有利に売却を進めるためには、費用の全体像を把握し、早めに動き出すことがカギです。そして何より、相続不動産の取り扱いに詳しい信頼できる不動産会社に相談することが、後悔のない売却への第一歩となります。
まずは査定を通じて、不動産の現在価値や売却プランを確認し、自分たちにとって最適な選択肢を見極めましょう。