借地権付き建物は相続可能?相続・売却に関する注意点や不動産の活用方法を解説

不動産を相続するというと、「自宅や土地をそのまま引き継いで自由に使える」と思われがちですが、借地権付きの建物の場合は事情が異なります。これは、自分が所有する建物が他人の土地の上に建っている状態であるため、土地の所有者である地主との契約や権利関係が大きく関わってくるためです。
借地権付き建物を相続する際には、
- 地主の承諾が必要な手続き
- 契約内容の確認
- 名義書換料(譲渡承諾料)の有無
- 相続税評価額の計算方法
など、通常の不動産とは異なる注意点や判断ポイントが多くあります。これらを正しく理解せずに手続きを進めると、思わぬトラブルや損失に繋がる可能性もあるため、事前の情報収集と適切な準備が非常に重要です。
本記事では、借地権付き建物の相続に関する基礎知識から、売却時の注意点、相続後の活用方法に至るまでを分かりやすく解説しています。
「これから借地権付きの建物を相続する可能性がある方」や「すでに相続して対応に悩んでいる方」、「売却や賃貸を検討している方」にとって、判断の助けとなる実用的な情報をまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
この記事を監修した人

岩冨 良二
後楽不動産 売買事業部 係長
不動産業界歴26年のベテランで、宅地建物取引士・賃貸不動産経営管理士の資格を持つエキスパート。豊富な知識と実績でお客様から厚い信頼を得ており、売買事業部のエースとして活躍中。複雑な取引もスムーズにサポートし、最適な提案を行う頼れるプロフェッショナルでありながら、社内のムードメーカーとしても周囲を明るくする存在。
借地権付き建物の相続の基本

借地権付き建物を相続する際には、通常の不動産とは異なる独自のルールや注意点が存在します。
建物の所有者は亡くなった方のご家族であっても、その土地自体は他人(地主)のものという複雑な権利関係があるため、「自宅の相続=すぐに自由に使える」と思い込んでしまうと、後でトラブルに発展する可能性もあります。
本章では、これから借地権付き建物を相続する可能性がある方、すでに相続手続きを進めている方が、手続きをスムーズに進め、適切な判断ができるようにするための基本的な情報をまとめています。
借地権と建物の相続
借地権付きの建物とは、自分が所有する建物が、他人(地主)の土地の上に建っている不動産のことを指します。このようなケースでは、建物の所有権は借りている人(借地人)にありますが、土地の所有権はあくまで地主にあり、土地を使用する権利(借地権)を契約に基づいて得ているという形になります。
この「借地権」には主に2つの種類があります。ひとつは「普通借地権」、もうひとつは「定期借地権」です。
どちらの借地権も相続の対象となりますが、それぞれの性質には大きな違いがあります。定期借地権は契約期間が満了すると原則として更新が認められず、契約終了時には土地を地主に返還しなければなりません。そのため、建物をどのように活用していくかを計画する際には、契約の残存期間や終了条件をしっかり確認する必要があります。
一方で、普通借地権は、地主が正当な理由を示さない限り契約が更新される仕組みとなっており、長期にわたって利用しやすい特徴があります。将来的に建て替えや売却を検討する場合にも、活用の自由度が比較的高いといえるでしょう。
相続に地主の許可は不要
借地権付き建物を相続するとなると、「地主に許可を取らなければいけないのでは?」と不安に感じる方も多いかもしれません。ですが、借地権は法律に基づく契約上の権利であり、相続は“承継”として扱われるため、売買などの“譲渡”とは異なり、地主の同意は原則として必要ありません。
借地契約の内容も、相続が発生したからといって変更されることはなく、相続人が誰であるかについて地主が口を出す権限もありません。したがって、借地権付きの建物を相続する場合でも、地主の許可を得る必要は基本的にはないと考えて問題ありません。
ただし、相続したあとに建物を売却したり、建て替えを行ったりする場合には、契約の内容によって地主の承諾が求められることがあります。このようなケースでは、事前に契約書をよく確認し、必要に応じて地主と丁寧にやりとりを行うことが大切です。
また、今後の手続きを円滑に進めるためにも、地主との関係は良好に保っておくことが望ましいでしょう。
名義変更料(譲渡承諾料)は不要
名義変更料(譲渡承諾料)とは、借地権付き建物の所有者が借地権を第三者に譲渡(売却)する際、地主に支払うことがある費用です。
相続は譲渡とは異なり、権利の承継とみなされるため、原則として名義変更料は不要とされています。ただし、実務上は地主から請求されるケースもあるため、契約内容や地主との関係を確認することが大切です。
なお、相続後に第三者へ売却する場合には、譲渡とみなされ、名義変更料が発生する可能性があります。
建て替えや売却には地主の許可が必要
借地権付き建物を相続したあとに、建て替えや第三者への売却を検討する場合は、地主の承諾が必要になることがあります。
これは、借地契約において建物の変更や譲渡(売却)に関する条項が設けられていることが多く、それに基づいて手続きを行う必要があるためです。ただし、すべてのケースで承諾が必要というわけではなく、契約の内容によっては不要な場合もあります。
そのため、こうした行為を行う前には、まず借地契約書の内容を確認し、「承諾が必要な行為」が何かを把握することが重要です。
また、地主との交渉が必要になる場面では、個人での対応が難しいと感じる場合や条件に不安がある場合は、不動産会社や弁護士などの専門家に相談することで、トラブルを未然に防ぎ、スムーズに進められるでしょう。
借地権付き建物の相続税評価額の計算方法
借地権付き建物の相続税評価額は、土地の所有権がなく借地権としての権利を持っているため、通常の不動産評価とは異なる計算方法(借地権の評価額と建物の評価額の合算)が用いられます。
借地権の評価額の求め方
土地の評価額×借地権割合=借地権の評価額
建物の評価額の求め方
固定資産税評価額=建物の評価額
借地権の評価額+建物の評価額=借地権付き建物の相続税評価額
この評価額が相続税の課税対象となり、適用される税率に応じた相続税を納めることになります。ただし、上記の計算方法は普通借地権の場合で、定期借地権の場合は異なる計算方法が用いられます。
借地権付き建物の売却の注意点

借地権付き建物を相続したあと、「使わないので売却したい」と考える方も多いでしょう。しかし、借地権付き物件の売却には、通常の不動産とは異なるルールや費用負担が伴うため注意が必要です。
たとえば、地主の承諾や名義書換料の発生、契約内容による制約、価格設定の難しさなど、事前に確認しておかないとトラブルや損失につながる可能性があります。
この章では、借地権付き建物を売却する際に知っておきたい代表的な注意点を、順を追ってわかりやすく解説していきます。
名義書換料(譲渡承諾料)の発生
借地権付き建物を相続したあとに売却する場合は、地主の承諾が必要になるケースがあります。このとき、「名義書換料」や「譲渡承諾料」と呼ばれる費用がかかることがあります。
これは、借地権を新しい所有者に引き継ぐことに対して、地主に支払う承諾料のようなものです。
名義書換料は、一般的には売主が負担することが多く、金額は借地権の価格の1割程度が目安とされています。ただし、この費用には法律上の明確な基準があるわけではないため、金額は地域や地主によって異なるのが実情です。
売却を検討している場合は、事前に契約書を確認したり、地主と相談したりして、必要な費用や条件をしっかり把握しておくことが大切です。
売却価格の適切な設定
借地権付きの物件は、土地の所有権が含まれていないため、一般的な不動産と比べて売却価格が低くなる傾向があります。特に、借地契約の残り期間が短い場合や、契約内容に制約が多い場合には、買い手にとってのリスクが高まり、価格がさらに下がる可能性があります。
そのため、売却を検討する際には、周辺の相場や類似物件の事例を参考にしながら、現実的な価格を設定することが重要です。また、購入希望者にとって「土地を所有できない」という点がマイナスに働くこともあるため、物件の魅力や借地権のメリットを丁寧に伝える工夫が必要です。
- 土地を購入するよりも、低コストで建物を所有できる
- 土地価格が高いエリアでも、借地権なら比較的手が届きやすい
- 建物は相続や売却が可能で、資産として活用できる
- 土地の固定資産税は地主が負担するため、間接的なコストが抑えられる
- 土地の管理・メンテナンスは基本的に地主が行うため、借地人の手間が少ない
※ただし、地代や更新料などの継続的な費用が発生する場合があるため、事前に契約内容を確認することが大切。
契約内容の確認
売却前に、借地契約の内容をしっかり確認しておきましょう。普通借地権は更新可能なため売却しやすいですが、定期借地権は契約満了時に土地を返還する必要があり、売却難易度が高まります。
- 普通借地権か定期借地権か
- 地主の承諾が必要な事項(売却や譲渡、建て替え)
- 地代や更新料のルール
- 契約終了時の義務 など
特に契約の残存期間が短い場合は購入希望者にとって不利な条件となり、買い手が見つかりにくくなる可能性があります。売却をスムーズに進めるためには、地主や不動産の専門家と相談しながら計画を立てることをおすすめします。
裁判所の許可申請
借地権付き建物を売却する際、地主からの承諾が得られない場合や、権利関係が複雑で話し合いが進まない場合には、家庭裁判所に対して「処分許可」の申立てを行う必要が出てくることがあります。
たとえば、次のようなケースでは法的な対応が必要になる可能性があります。
- 地主が売却に同意してくれない
- 地主と連絡が取れない、所在が不明
- 相続人同士の意見が対立している
- 相続人の中に未成年や判断能力が不十分な方がいる
このような場合は、裁判所の判断を仰ぎ、許可を得ることで売却を進められる可能性があります。
ただし、申請には書類の準備や一定の期間が必要になるため、トラブルの兆候がある場合は、早めに専門家(弁護士や司法書士など)に相談して、法的手段を検討することをおすすめします。
相続手続きに必要な書類と手続きの流れ

借地権付きの建物を相続する場合、通常の不動産相続とは異なり、土地の所有者が別に存在するという前提のもとで進めなければならないため、必要な書類や手続きにも独自の注意点があります。
「とりあえず名義を変えればいい」といった簡単なものではなく、借地契約の確認や地主への連絡、相続登記など、段階ごとにしっかりと準備が必要です。
ここでは、借地権付き建物の相続に必要となる主な書類と、実際の手続きの流れについて詳しく解説します。いざというときに慌てずに対応できるよう、基本的な情報を把握しておきましょう。
必要な書類
借地権付き建物の相続には以下の書類が必要です。
- 遺産分割協議書
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 借地契約書
遺産分割協議書は相続人間で遺産分割の話し合いを行い、合意内容を記載して作成します。合意が得られればすぐに作成可能ですが、相続人間での合意が得られない場合や専門家に依頼する場合は数日から数週間程度かかることもあり、費用は約5万円~10万円程度です。
戸籍謄本や住民票は、本籍地や住所がある場所の役所で取得します。本籍地や住所が遠方の場合は、コンビニ交付や広域交付制度、郵送での請求を導入している場合もありますが、自治体によって対応は異なるため、取得までに時間がかかる場合もあります。
借地契約書は契約時に地主との間に交わした書類です。紛失している場合は、地主や不動産会社に相談し再発行が必要になる場合もありますので注意しましょう。
借地権付き建物の相続手続きの流れ
借地権付き建物の相続では、建物の所有権は相続できても、土地の所有権はあくまで地主にあるという特殊な構造から、通常の不動産相続とは異なる注意点がいくつかあります。
たとえば、借地契約の内容確認や、地主への報告・調整が必要になる点、登記や売却時の名義変更に制約がある点などが挙げられます。こうした特有の事情を踏まえて進めなければ、後のトラブルや手戻りにつながるおそれがあります。
以下では、借地権付き建物を相続する際の基本的な手続きの流れについて、通常との違いも意識しながらご紹介します。
- 相続人の確定
- 借地契約の確認
- 遺産分割協議の実施
- 相続登記の申請
- 地主への連絡
- 相続税の申告(必要時)
①相続人の確定
被相続人(亡くなった方)の戸籍謄本を取得し、相続人を確認します。法定相続人が決まっている場合はその通りに進め、遺言書がある場合は内容を確認し、その指示に従います。
②借地契約の確認
借地権の契約書を確認し、契約の種類(普通借地権・定期借地権)を把握します。同時に契約期間や更新の可否、地主との関係性も確認しておきましょう。
③遺産分割協議の実施
相続人全員で話し合いを行い、借地権付き建物を誰が引き継ぐかを決めます。遺産分割協議書を作成し、相続内容を正式に記録します。
④相続登記の申請
借地権付き建物の名義変更を行うため、法務局に相続登記を申請します。
- 被相続人の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 遺産分割協議書
- 借地契約書
- 固定資産評価証明書
登記完了までは最長で1~2か月程度かかる場合があります。手続きをスムーズに進めるためには、事前に必要な書類を準備しておくことや、司法書士や弁護士など手続きを代行してくれる専門家に依頼することが重要です。
⑤地主への連絡
相続人が変更されたことを地主に報告します。相続に関して地主の許可は不要ですが、地主との関係を良好に保つためにもコミュニケーションを取っておくことをおすすめします。
⑥相続税の申告(必要時)
相続税の対象になる場合は、相続税の申告を行います。借地権の評価額に応じて税額が変わるため、税理士へ相談するとよいでしょう。
申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
遺言がある場合の手続きについて
借地権付き建物を相続する際に遺言書がある場合は、基本的にその内容に従って手続きを進めることになります。また、遺言執行者が指定されている場合は、その人物が手続きを主導し、相続人は執行者の指示に従って対応する形になります。
なお、遺言の内容によっては注意が必要です。たとえば、法定相続人以外の人に借地権を譲る内容が記載されている場合、それは「相続」ではなく「遺贈」と扱われます。
この場合、借地権の譲渡とみなされることがあり、地主の承諾が必要になるほか、「譲渡承諾料(名義書換料)」が発生する可能性もあります。手続きを進める前に、契約内容の確認や、必要に応じて不動産や法律の専門家に相談することをおすすめします。
借地権付き建物相続後の不動産活用方法

借地権付き建物を相続したあとは、その不動産をどのように活用するかを検討する必要があります。活用方法にはいくつかの選択肢があり、建物の状態や相続人のライフプラン、資金状況によって適した方法は異なります。
それぞれの方法にはメリットとデメリットがあるため、将来の方針や費用負担も含めて慎重に比較・検討することが大切です。
地主に返還する
借地権付き建物を相続したものの、今後利用する予定がなかったり、老朽化が進んでいて再活用が難しい場合には、地主に土地を返還して契約を終了させるという選択肢もあります。
この方法を選ぶことで、地代の支払いや建物の維持管理といった継続的な負担を解消することができます。
ただし、返還する際には多くの場合、借地上にある建物を解体して更地にしたうえで返す義務があるため、数十万円〜百万円以上の解体費用が発生する可能性があります。また、契約書に「返還時の条件」が明記されていることもあるため、事前に内容をよく確認することが重要です。
「使わない不動産をそのままにしておくのは心配」「管理の手間やコストを減らしたい」という場合には、有効な選択肢となり得ます。
地主に売却する
相続した建物にある程度の資産価値があり、地主がその土地を有効活用したいと考えている場合には、建物を地主に売却するという選択肢があります。
たとえば、
- 地主が土地の再開発や駐車場経営、賃貸住宅への転用を検討している
- 周辺の借地契約を順次解消して土地を一本化したい意向を持っている
といったケースでは、売却交渉が比較的スムーズに進む可能性があります。
建物を売却することで、相続人側は管理や固定資産税の負担から解放され、地主側も土地と建物の所有権を一体化できるというメリットがあります。これは、今後の土地活用や処分を考えるうえでも有利に働く要素です。
ただし、すべての地主が購入を希望するとは限りません。建物の老朽化や活用計画が未定の場合、買い取りを断られることもあります。また、売却価格についても市場価格より低く提示されるケースがあるため、相場を確認したうえで交渉に臨むことが大切です。
地主との関係性や意向を探る意味でも、一度打診してみる価値は十分にあります。
地主から底地を購入して売却
借地権付き建物を相続した後に売却を検討している場合、底地(現在借りている土地)を地主から買い取って、土地・建物の一体所有に切り替えるという方法もあります。これにより、「所有権付き不動産」として市場に出せるため、売却しやすくなり、価格も高く設定できる可能性があります。
この選択肢が有効になるのは、たとえば以下のようなケースです。
- 建物にまだ十分な資産価値があり、第三者への売却を本格的に考えている
- 周辺に類似の所有権物件が多く、比較された場合に借地権付きでは不利になる
- 売却にあたっての資金余力がある
一方で、底地を買い取るには地主との交渉が必要で、すぐに応じてもらえるとは限りません。また、土地の評価額や面積によっては数百万円〜数千万円の購入費用がかかる可能性もあるため、資金計画は慎重に立てる必要があります。
購入価格の目安は「路線価」や「時価」をもとに決定されますが、地域や地主の意向によって金額は大きく異なるため、不動産会社を通じた事前の査定や打診がおすすめです。
購入後は、所有権付き不動産として登記を済ませたうえで売却することになるため、資産価値を高めて売りたい場合には検討する価値のある選択肢です。
第三者に売却する
借地権付きの建物は、相続人が利用しない場合や早期に現金化したい場合などに、市場に出して第三者へ売却することも可能です。ただし、通常の所有権付き不動産とは異なる点が多いため、慎重な対応が求められます。
まず、第三者への売却には地主の承諾が必要となるのが一般的です。このとき、地主に対して名義書換料(譲渡承諾料)と呼ばれる費用の支払いを求められるケースがあります。これは売主側の負担となるのが通例で、借地権価格の10%程度が目安とされますが、金額は契約内容や地域・地主の方針により異なります。
また、借地権付き物件は、土地の所有権が付いていないため、所有権物件と比べて購入希望者が限定されがちです。特に以下のような懸念を持たれることがあります。
- 地主との契約関係を引き継ぐ必要がある
- 売却後の建て替え・増改築に制限がある可能性がある
- 借地契約の残存期間が短い場合、利用年数に不安がある
こうした点を踏まえ、売却活動を行う際には、契約内容の明確な説明と、物件のメリット(立地・コスト面など)を的確に伝えることが重要です。
売却戦略としては、不動産会社に借地権付き物件の取り扱い実績があるかを確認し、専門知識のある業者に相談・媒介依頼をすることで、スムーズな売却につながる可能性が高まります。
建物を賃貸する
相続した借地権付き建物を自分で使用しない場合でも、第三者に賃貸することで家賃収入を得るという選択肢があります。特に、駅近や住宅需要の高いエリアにある物件であれば、一定の収益を継続的に見込める可能性があります。
ただし、賃貸に出すにはいくつかの確認が必要です。
まず重要なのは、借地契約で「転貸(第三者への貸し出し)」が許可されているかどうか。借地契約には、無断転貸を禁止する条項が盛り込まれているケースが多く、地主の承諾が必要となることがあります。
また、定期借地権の場合は契約期間満了後に土地を返還する義務があるため、長期賃貸を認めないケースもあります。たとえば、契約残存期間が5年しかない物件を10年契約で貸すといったことはできません。そのため、契約期間と賃貸予定期間の整合性をしっかり確認することが重要です。
さらに、建物の老朽化が進んでいる場合は、賃貸前にリフォームや安全対策が必要となる可能性もあります。賃料収入と修繕コストを見積もり、収益性が見込めるかを冷静に判断しましょう。
不明な点がある場合は、契約書を確認したうえで地主に相談する、あるいは不動産管理会社に賃貸可能性の診断を依頼すると安心です。
借地権と相続には専門家の助言が必要

借地権付きの建物を相続する際は、契約内容や税務面に関する専門家の助言が欠かせません。例えば、借地契約の更新が可能な普通借地権と、契約満了後に土地を返還しなければならない定期借地権では、相続後の対応が異なります。
また、相続税の申告では借地権の評価額を算出する必要があり、路線価や借地権割合を基に適正な評価を行うことが重要です。さらに、売却を検討する場合は地主の承諾や譲渡承諾料が発生する可能性があるため、事前に交渉を進める必要があります。
こうした手続きをスムーズに進めるためにも、不動産会社や税理士、弁護士に相談し、最適な戦略を立てることをおすすめします。
まとめ
借地権付き建物の相続には、通常の不動産とは異なる独自のルールと注意点があります。借地契約の内容や地主との関係、相続税評価の方法など、確認すべきポイントが多いため、思い込みで進めるとトラブルや損失につながるおそれがあります。
相続後に建物をどう活用するかによっても、対応は大きく変わってきます。売却を希望する場合は、契約内容や名義書換料の有無、適正な売却価格の見極めが必要です。一方で、地主に返還する、建物を賃貸に出す、底地を買い取って所有権を一本化するなど、活用の選択肢は複数あります。
いずれの場合も、地主との円滑なやり取りが重要になるため、日頃からのコミュニケーションや信頼関係の構築も相続成功の鍵となります。
「借地権付きの建物を相続することになりそう」「手続きに不安がある」という方は、まずは契約書の内容を確認し、現状を正しく把握するところから始めましょう。不明点があれば、不動産会社や弁護士、税理士などの専門家に早めに相談することが、安心・安全な相続への第一歩です。